リリー・フランキー、家長役で醸し出す“特有の生々しさ” 『万引き家族』と他出演作との共通点

『万引き家族』リリー・フランキーの生々しさ

 一方、オダギリジョー主演で主人公が美化されていた映画版『東京タワー』(2007年。松岡錠司監督)の主題歌は、福山雅治「東京にもあったんだ」だった。リリーファンだった福山は原作小説の本の帯にコメントを寄せていたし、主題歌の担当はリリーからの依頼だったという。人気絶大でいい男の代表的な立場になった福山は2011年に「家族になろうよ」をリリースしてヒットした。結婚式の定番ソングに仲間入りした同曲は、理想の夫、理想の親、理想の家族を歌っている。

 福山が是枝裕和監督『そして父になる』(2013年)で主演を務めたのも、「家族になろうよ」の延長線上の出来事のようにみえた。この映画は、出生時に病院で子どもを取り違えられた2家族の交流を描いている。福山は大企業に勤める仕事人間のエリートで、子どもに自分の理想を押しつける教育を行い、妻(尾野真千子)の母親としての気持ちを理解できないでいる。自分の理想が空回りしている男なのだ。その彼が父であることに目覚めるまでの物語だ。

 一方、相手家族の父親であるリリーは子ども3人を抱え、繁盛しているようにはみえない電気店を個人経営している。いい加減な性格で妻と言い争ってばかりいるが、家族への情は厚く、子どものこともよくかまっている。福山とリリーで互いに一長一短がある父親を演じたわけである。

 人は常に正しくあり続けることなどできないし、馬鹿げたふるまいも欲に走った行動もする。福山雅治「家族になろうよ」的ないい男像・理想の父親像からはずれた、ちょっとうさんくさいけれど情はある男・父の姿をリリー・フランキーが体現している。福山とリリーで対になるイメージなのだ。

 そして、映画版『東京タワー』で母親役だった樹木希林が『万引き家族』では年金を受給するおばあちゃんとなり、その平屋に転がりこんだ一家の父親をリリーが演じている。2人とも是枝作品への出演は多いが、コラムで実母のことを笑い交じりに書いていた頃からのリリーの歩みを考えると、興味深いめぐりあわせの配役だと思う(『そして父になる』では、福山の義母役が樹木だった)。

 『万引き家族』の場合、貧困、格差、生活保護の不正受給といった社会問題を背景に物語が作られていた。リリーによる父親像という点では、この映画からさかのぼって『美しい星』(2017年。吉田大八監督。三島由紀夫原作)を観るのも楽しいだろう。この映画ではいずれも鬱屈を抱えた父、息子、娘が、それぞれ自分が火星人、水星人、金星人であることに目覚める。地球人のままの母も、美しい水の効能を知る。リリーが主演する父親は、気象予報士としてテレビ番組に出演しながら浮気していたが、ある出来事をきっかけに地球温暖化に対する警告を唐突かつ声高に訴え始めるのだ。

 自分が抱えた私的問題から、社会問題に関心を向けることで逃避する構図である。それに対し、問題のある社会状況に取り巻かれながらそれに立ち向かうわけではなく、内向きになり一家の問題が蓄積される『万引き家族』は、『美しい星』と好対照の内容だと思う。

 奇妙な家族の軋みを描いたこれら2つの映画は、硬軟、清濁の両面をもつリリー・フランキーが家長役を務めたからこそ成立したといえる。他の人にはない特有の生々しさが、彼にはあるのだ。

■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)など。

■公開情報
『万引き家族』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、緒形直人、森口瑤子、山田裕貴、片山萌美、柄本明、高良健吾、池脇千鶴、樹木希林
製作:フジテレビ、ギャガ、AOI Pro.
配給:ギャガ
(c)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.
公式サイト:http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku

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