『劇場版 BiS 誕生の詩』『WHO KiLLED IDOL? SiS消滅の詩』公開に寄せて
濱野智史 × 渡辺淳之介が語る、アイドルとプロデューサーの関係性 濱野「なにかあったときは赦すべきでした」
濱野「本当に病んでしまい、最後は無力感の塊に」
渡辺:地下アイドルのシーンってマジョリティーを無視してやってきたと思うんですよね。小さい村の中で盛り上がっていて、多くのひとにとってはよくわからない変な世界だった。それを10年くらい前にぶち壊したのがAKB48で、女の子が上を目指して頑張るのはかっこいいというイメージを作り上げた。
濱野:ドキュメンタリーの2作目『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』などは、本当に凄かったですね。あの女の子たちが大きなものに立ち向かう緊張感がヒシヒシと伝わってきて。
渡辺:ああいうのを見せられると、メジャーの壁の高さを感じます。誰が見ても、これはすごいことなんだってわかるじゃないですか? で、どうやってそこを目指すかを考えたとき、彼女たちの周囲には常にカメラが何百台とあって回っていることに気付いて。おそらくプライベートなんてないんだろうなって感じなんです。まずはこの緊張感が必要だと思って、今回の合宿では何台もカメラを回しました。メジャーには勝てないにせよ、僕らは僕らなりに作品は作っていかなければいけないですから。
濱野:「人に見られること」を常にメタ目線で意識するのは重要ですね。
渡辺:僕の事務所ではBiSHが一番売れているんですけれど、彼女たちはメディアに最初すごく弱くて。一番最初に収録したラジオなんかは5秒くらい黙っちゃったりして放送事故するんですよ。でも、SiSの子たちは合宿で最初からカメラを回していたから、カメラ慣れしていて物怖じせずに喋れるんですよね。そういう環境を整えるのは、すごく大事かなと。なにかで成功して有名になる人って、だいたい有名になる前から成功者と友だちだったりするじゃないですか。あれもきっと、レベルが高い人に合わせて切磋琢磨するから、結果的に抜きん出てくるんだと思うんですよ。だから突き抜けたものを見つけて、それを追っていかなければいけないと思うんですけれど、なにが突き抜けるのかを見極めるのは難しいです。BABYMETALみたいに“アイドルの壁”を突破するには、その見極めこそが大切なのかもしれません。濱野さん、なにかアイデアはありませんか?
濱野:ただのジャストアイデアなんですけど、たとえば先日、同じ日に講演をされていた田家大知さんと組んで、ゆるめるモ!とコラボをしたりすれば、なにか化学反応が起こるのでは?と思いました。ほんと、プロデュースの仕方もコンセプトとかも正反対で対照的ですし。
渡辺:なるほど。でも僕、あのちゃんが怖くて(笑)。けっこう異次元ですよね、あの子は。突き抜けているのはたしかですが、一緒にやって無事でいられる気がしない。僕が手がけるグループって、あのちゃんみたいに目立つ子が出てこないんですよね。もしかするとそれは、僕が中国の纏足みたいなものを彼女たちに履かせてしまっているからじゃないかって、最近は思っていて。僕がいろいろやるから、彼女たちが自立して歩けないというか。
濱野:100%断言しますが、絶対そうだと思います(笑)。やっぱサイコパスは自分を超えるサイコパスを生み出せない。PIPをやっていたとき、僕のTwitterで彼女たちについてつぶやくと、もともとの評論系の人が離れてアイドル系の人が増えるという現象が起こっていたんですけれど、結果的に総フォロワー数は完全横ばいで全く変わらなかったんです。でも、メンバーがTwitterをやっても全然フォロワー数伸びなくて、突き抜けないで終わり。
渡辺:濱野さんの場合は、ガチヲタだったから余計にうまくいかなかったのかもしれませんね。
濱野:そうなんですよね……。ドルヲタが運営に回ってもロクなことがない、というのはさんざん聞いていたし、分かっていたはずなんですが……。ちなみにPIPのメンバーは、「この子なら推せるな」というのを基準にメンバーを採って、でもそういう子たちも次第に辞めていくことを前提に楽曲とかも作ったんです。しかし実際に辞められると、僕が本気で推せると思っていたメンバーだから、僕自身が本当に病んでしまい、最後は無力感の塊になってしまった。「馬鹿だな俺、なんでそんな単純なことに気付かないんだ!」って、すごく後悔しましたから。
渡辺:本当に好きな子はプロデュースしないほうが良いですよ。客観視できなくなって、全部最高に見えちゃうから。業界人らしからぬことになっちゃう。
濱野:大学の講義で渡辺さんは、「適切な距離感が必要」って仰っていましたが、本当にその通りです。清水さんの話だって、適切な距離、線引きが大事だって話ですからね。
渡辺:ぶっちゃけ僕はプロデューサーとメンバーとの肉体関係とかも、ちゃんとマネジメントできていれば別に良いとは思んですけれどね。そういう闇の部分があったほうが、面白いと思うし。線引きでいうと、恋愛感情は持っちゃいけないけれど、セックスを楽しむだけならOKって感じで。濱野さんはある意味、女の子を女の子としてちゃんと扱っていたからこそ、失敗してしまったのかもしれない。僕はもう、アイドルは◯◯◯◯だと思ってますから。
濱野:激しく同意です(笑)。post-truthじゃなくてprimal-truthです(笑)。いや、とかいうとまた激しく炎上しちゃいますよね……。「お前こそメタ目線持てよ」って感じですよね。炎上はもうコリゴリなのに、これはもう「三つ子の魂百まで」なんでしょうね……。
いや、しかし僕の失敗は、本当にまだまだ足りないところが多すぎて……。有能な炎上マーケターや優秀なクリエイティブも大事だけど、ほかにも全然足りなかった。彼女たちがもともとなにもできないのは前提で、メンバーもスタッフもなにかあったときは赦すべきでしたし、そのための仕組みも枠組みも最初からちゃんと作るべきでした。
ちなみにAKB48は仕組みだけじゃなくて、やっぱりメンバーの底力もすごい。高橋みなみ(たかみな)の『リーダー論』って本があって、これがすごいんですね。たかみながあるメンバーを怒った後は、ほかのメンバーに根回しして、「あとで絶対相談来るから、待ち構えてて」的な感じで、怒られたメンバーの相談に乗らせるんですって。それをひたすらやって、メンバー同士で高め合えるようにしている。絶妙な距離感ですよ。もし、たかみなの『リーダー論』と渡辺さんの『渡辺淳之介: アイドルをクリエイトする』を読んでいれば(田家さん・大坪さんの『ゼロからでも始められるアイドル運営』は読んでいたんですが)、まだもう少しうまくいったのかもしれないなぁ……。今回、渡辺さんとの出会いを通じて、ああ、「Re:ゼロから始めるアイドルP運営」なんて思いも去来しますが、もちろんそれは夢想だし、無理だし、やりません。
最後になりますが、今回の映画、本当にアイドル運営の「裏側≒闇」を描いたドキュメンタリーとして、傑作でした。そしていまの僕に必要なのは、この映画における清水さんと同じで、自らが犯した失敗に正面から向き合い、公的に謝罪しなければいけないと、ようやく決意することができました。近いうちに、本当にいまさらではあるんですが、PIPの公式解散宣言と謝罪をしたいと思っています。渡辺さん、本当にありがとうございました!
(取材・構成=松田広宣)
■公開情報
『劇場版 BiS誕生の詩』
luteにてBiS誕生の詩(SSTV ver.)前編(https://youtu.be/ECuZvTQTx_I)、後編(https://youtu.be/S0a7XYu2ZMI)が無料公開中。名京阪神地域では、2月下旬から『WHO KiLLED IDOL ? -SiS消滅の詩-』と同時公開。
監督:カンパニー松尾
プロデューサー:高根順次
出演:BiS、BiSオーディション参加者、渡辺淳之介、清水大充、エリザベス宮地、高根順次、カンパニー松尾、バクシーシ山下、ビーバップみのる、タートル今田、嵐山みちる、梁井一
2017年/ 87分/HD/16:9/日本/ドキュメンタリー
企画・製作・著作・配給・宣伝:SPACE SHOWER FILM
『WHO KiLLED IDOL ? -SiS消滅の詩-』
2017年2月4日~24日テアトル新宿(3週間限定レイトショー)ほか、下記劇場でも順次公開予定
名古屋シネマスコーレ、京都立誠シネマ、神戸元町映画館、広島横川シネマ
監督:エリザベス宮地
出演:BiS、SiS、GANG PARADE、渡辺淳之介、清水大充、エリザベス宮地、高根順次、バクシーシ山下、ビーバップみのる、タートル今田、梁井一、嵐山みちる、カンパニー松尾
プロデューサー:高根順次
企画・製作・著作・配給・宣伝:SPACE SHOWER FILMS
2017年/105分
公式サイト:killidol.jp