濱野智史 × 渡辺淳之介が語る、アイドルとプロデューサーの関係性 濱野「なにかあったときは赦すべきでした」

濱野智史×渡辺淳之介、BiS&SiSドキュメンタリー語る

渡辺「アイドル志望の子って、大概は自分のことしか頭にない」

濱野:今回の映画のテーマは「赦し」でもあると思いますが、渡辺さんが相手のことを赦せるようになったのって、いつ頃でしょう。昔はもっとキレていたとか、ありますか?

渡辺:もちろん怒りはするんですよ。でも、たしかに基本的に全部赦していますね。たぶん、あんまり相手に興味がなくなっちゃうんだと思います。そうすると、もう後は頑張ってねって応援するだけで。ただ、仕事においては線引きをしっかりするようになったという意味では、昔より赦せなくなっているかもしれません。うちの事務所に所属する子に関しては、そもそも絶対に事務所を辞めさせないし。

濱野:マジっすか!? いわば「終身雇用」ということですね。失われた古き良き「日本的経営」の鑑じゃないですか……。いやほんと、感服します。
 ある成功した地下アイドルのグループのプロデューサーさんも、「絶対に辞めない」って約束したメンバーしかオーディションで採らないって言っていましたから、その覚悟は必要なんでしょうね……。ちなみに僕は、PIPから卒業していくメンバーのことはまったく止めなかった(涙&苦笑)。「人はみな自由だから……」とか自分に言い訳して。
 で、なぜ「赦し」について聞いたかというと、お子さんが生まれたことでなにか心境の変化はあったのかなと。

渡辺:子どもが生まれたら可愛くてしょうがなくて、毎日家に帰って愛でて仕事もおろそかに……ってなるかと思っていたのですが、まったく変わらなかったですね(笑)。もちろん可愛いし、息子がなにかしたいと言えば、なんでもしてあげようと思うんですけれど、世間一般でいうイクメンみたいな感じでは全然ありません。息子だからかもしれませんが。

濱野:なるほど。ちなみにうちは娘なんですけれど、マジで「アイドル」そのものなんですよ。本当に可愛くてしょうがなくて、まさに親バカみたいになっちゃっているんです。もう子育てが生き甲斐みたいな。赤ちゃんって、もちろん最初は泣きわめくだけで、目も合わないし、レスもない「塩対応」状態なんです。でも、だんだん目が合うようになって、パパとか言い始めて、「認知」もされる。やばい、このプロセスはアイドルと一緒だって気付いてしまって。よくドルヲタが「成長を見守れるのがいい」(キリッ)とか言うし、僕もそう言ってたんですけど、「あ、これガチでほんとなやつだ」と(笑)。
 少し真面目に整理すると、もともと人間には「可愛いもの(弱いもの・小さいもの・丸っこいもの)」を大切にしなければいけないっていう本能(快楽)が進化心理学的に備わっているんですよね。備わっているというか、その快楽神経を鍛えてきた、というか。だからこそ、人間は赤ちゃんも、アイドルも、好きになる。いまの日本は「失われた20年」的不景気で結婚も恋愛する人が減っているから、その代わりにみんなアイドルを愛でるようになったというのが本質だと僕は思っていて。
 ちなみにいまの話は、「ネオテニー説」をベースにしてます。人間は脳が進化して肥大化したから、体はまともに動かない状態じゃないと生まれてこれなくなった。だから他の動物に比べて、「一人立ち」するまで時間がすごくかかる。そこで親が“可愛い”って思う気持ちが「備わっている」ことがとても重要なんですよ。

渡辺:たしかに“可愛い”って思えなきゃ、対応できないですもんね。

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『劇場版 BiS誕生の詩』より

濱野:ヲタが自分の生活を犠牲にしてでもアイドルを推してしまうのも、本能の為せる業。アイドルと赤ちゃんって、本当にそっくりですよ。

渡辺:赤ちゃんですね、たしかに(笑)。この映画を観てもらうとわかりますが、アイドル志望の子って、大概は自分のことしか頭にない。自分を変えたいとか、壁を突き破りたいとかばかりで、人に感動を与えたいとかではないんです。変な妄想に捕らわれていたりね。エンターテイメントは人を喜ばせるのが第一だって意識はほとんどない。もちろん、スタートはそこで良いんですけれど。

濱野:ステージに上がるようになって、だんだん客観的に自分を見られるようになって、ようやく成長していくんですよね。僕は某イベントでアイドルのことをボロカスに言って炎上して、あくまでそれは会場を盛り上げるためのリップサービスでもあったんだけれど、真意をいえば、これくらいの暴言を吐いててでも、目の前の相手を喜ばせる意識を持って欲しいということだったんですけどね……。いや、もう言い訳はしませんが。

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