濱野智史 × 渡辺淳之介が語る、アイドルとプロデューサーの関係性 濱野「なにかあったときは赦すべきでした」

濱野智史×渡辺淳之介、BiS&SiSドキュメンタリー語る

 ドキュメンタリー映画『劇場版BiS誕生の詩』と『WHO KiLLED IDOL ? -SiS消滅の詩-』が、現在公開されている。『劇場版BiS誕生の詩』は、2016年9月に3泊4日で行われた新生BiSのメンバーオーディション合宿を、カンパニー松尾監督らがカメラを片手に密着したドキュメンタリー。一方の『WHO KiLLED IDOL ? -SiS消滅の詩-』は、オーディション落選者で公式ライバルSiSを結成することが発表されるも、スタッフの「重大な背任行為」を理由に、初ライブ直後に活動休止になるまでの真相を収めている。

 アイドルシーンの裏側、とりわけスタッフの過失に生々しく迫った本作を、誰よりも苦々しい思いで観たのは、濱野智史その人ではないだろうか。アイドル評論家として『前田敦子はキリストを超えた 〈宗教〉としてのAKB48』(ちくま新書)を刊行するなどして名を馳せ、自らアイドルグループ・PIP(Platonics Idol Platform)のプロデュースも手掛けるなど、シーンにおいて唯一無二の活動を展開していた濱野氏だが、2015年9月にあるイベントでの発言が炎上して以来、公の場に出ることはほとんどなくなり、PIPも事実上の解散状態となっていた。

 今回、リアルサウンド映画部では、濱野氏とBiSなどのプロデュースを手掛ける株式会社WACK代表・渡辺淳之介氏との対談を企画。自らも苦い失敗を経験している濱野氏は、本作になにを感じたのか。そしてPIPは本当に解散したのか。“アイドルとプロデューサーの関係性”をテーマに、本音で語り合ってもらった。

濱野「渡辺さんもまたキリストを超えている!」

ーー濱野さんがアイドルについて語るのは、件の炎上騒動以来です。今回、沈黙を破った理由は?

濱野:先日、とあるきっかけで、渡辺さんが某大学の特別プログラムで行われた「アイドルプロデュース」についての講義を拝聴する機会がありました。そこで深い感銘を受け、「ああ、自分に足りなかったのはこれだったのか……!」と感じ入りつつ、「そろそろPIPについてもきちんとけじめを付けよう」と決心した矢先に、ちょうどその日の夜にこの対談のお話をいただいて、マジで運命の巡り会い的なモノを感じたんです。それで、ぜひ対談させていただきたいと思い、さっそくその日のうちに映画を拝観しました。

 前編の『BiS 誕生の詩』は『ASAYAN』的なアイドルドキュメンタリーとして、ストレートな仕上がりの作品だなと感じたのですが、後編の『SiS消滅の詩』は想像を超える傑作で、魂が浄化されるような体験ができました。本作で描かれる「赦し」に、僕自身も導かれたというか。「お前はまた懲りずにキリスト教を持ち出すのか!」って怒られそうですが、グループ活動に対して重大な背任行為を行ったというSiSプロデューサーの清水大充さんは、いわばキリスト教におけるユダなんですよ。で、渡辺さんはそんなユダさえ赦す。イエスは最後の晩餐で、ユダに「汝のなすべきことをせよ」っていう有名なくだりがあります。ユダはまさにそのとおりに裏切って、キリストは十字架に磔にされるわけです。ところが渡辺さんは、十字架に磔にされることもなく、みんな赦してうまく収めている。つまり、渡辺さんもまたキリストを超えている!

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ホワイトボードを使って、持論を解説する濱野氏

渡辺:やばいっすね(笑)。濱野さんはもともとAKB48の評論家だったんですよね?

濱野:AKB48にハマって、小林よしのりさんらと一緒に「AKB知識人」とか担がれてやっていました。それで『前田敦子はキリストを超えた 〈宗教〉としてのAKB48』って本を刊行して、「もう評論家なんてやめた! 俺こそがガチヲタだ!」ってどんどんこじらせて、暴走して、その後は地下アイドルの現場に潜っていきました。その約1年後にプロデューサーになって、PIPを結成するわけですけれど、やっぱり「裏切る」スタッフもいて。僕は渡辺さんのように「赦す」ことができなかったんですよね……。それで運営が立ち行かなくなっていって、某イベントでの発言(アイドルはクソ)が原因で炎上してからは、Twitterもなにもかも辞めて、全てから逃げて、沈黙してしまった。だから、裏切られた渡辺さんの気持ちもわかるし、過ちを隠していた清水さんの気持ちもわかるんですよ。僕も、なんで渡辺さんみたいにできなかったかなぁって、後悔するばかりです。

渡辺:PIPのコンセプトはすごく面白かったですよね。グループがどんどん増殖していくという。

濱野:ネズミ講的アイドルって言われていましたね。22人のメンバーが成長したらプロデューサーになって、また新しいアイドルグループを作っていくプランを思い描いていました。でも、全然ちゃんとレールを引くことができなくて……。清水さんと同じで、本当にメンバーやファンやスタッフにとてつもなく申し訳ないという気持ちもありつつ、もう二度とアイドルのプロデュースはできないなと。

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『WHO KiLLED IDOL ? -SiS消滅の詩-』より

渡辺:僕はこの映画に思いっきり出演しているので、あまり客観的には観れていないんですけれど、ひとつリアルだなと感じたのは、辞めていく女の子にもスポットが当てられているところ。最近、アイドル引退のニュースって多いじゃないですか? で、そうした記事についたコメントなんかを読むと、だいたいプロデューサーが無能だから続けられなかったんだって書いてある。でも僕は、女の子が辞めていく原因はプロデューサーだけにあるとは考えていなくて。というのも、アイドルは自分ではなにもできないからこそ、周囲の大人たちを味方につけていく必要があると思うんですね。映画の中でも言っているけれど、まずは周りのスタッフに好かれなければ、絶対にファンにだって好かれないんですよ。その根本的なところを忘れて、自分本位でアイドルになろうとする子が多すぎる。結局、SiSが駄目だったのは清水のこともあるけれど、自分たちではなにもしようとしていないところにも原因があるんですよ。大人に言われたことを、「それいいじゃん!」ってやっているだけで終わっちゃった。

濱野:たしかに、自分のために働いてくれるスタッフに、文句を言ったりする子もいますよね。僕なんて、物販でメンバーの肩を叩いてヲタから「剥がし」をしただけで、「セクハラだ」って言われたことありましたからね(笑)。こっちは客入りからコスパまで必死で考えて、なんとか現場を回しているだけなのに……。

渡辺:もちろん、おたがいさまな部分もありますよ。でも、やっぱり信頼関係を築かないといけないし、そのためにはアイドルの側の意識も大切。アイドルに限らないけれど、信頼関係がないとどんどん悪いところばかりに目が行くようになって、最後には脱退とかなるんです。でも、グループがうまくいっているときは、案外こういう問題って起こらないんですよね。SiSの場合は、おたがいに悪いパターンの見本みたいな感じで。

濱野:ただ、それをドキュメンタリーという形で残せたのは、すごく意味があるなと。本作は、間違いなく、アイドルドキュメンタリー史に残る作品です。それに、一連の騒動があって、女の子たちも少し大人になっていましたのも印象的でした。

渡辺:最終的に彼女たちは、僕がプロデュースしているGANG PARADEに入ってくるんですけれど、やっぱりちょっと態度や意識が変わりましたね。これは彼女たちに限ったことではないんですけれど、みんな僕のことを最初はなめるんですよ。よくファンの男の子とかをスタッフとして入れるんですけれど、彼らも最初は「ジュンジュン~」とか言って。でも、三日目ぐらいから怯えたカワウソのような目で僕のことを見るようになる(笑)。一緒に仕事するってどういうことか、しっかり叩き込むので。どこにでもいる素人の子たちが、普通なら無理だってことを成し遂げてこそアイドルだし、それでグッと磨かれる子は多いですよ。

濱野:わかります、不思議と可愛くもなりますよね。人工知能の「深層学習(ディープラーニング)」と全く同じで、人は繰り返し練習をすることで、学習ができるし、深い自信を持つこともできる。

渡辺:だから若い子たちを鍛えるのは良いんですよ。一方で、大人はもう直せない場合が多いから、根が深いですよね。僕自身もそうですけれど、30年以上生きちゃうと、直せって言われてもどうにもならないところも多い。「よっぽど気をつけます!」くらいしか言えない(笑)。だから、清水のことは人間的に嫌いではないけれど、一緒に仕事はできないです。プライベートで付き合うなら、どんなにだらしない相手でもいいけれど、仕事は別ですから。

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