大河ドラマは朝ドラ並の人気を獲得できるか? 『おんな城主 直虎』森下佳子の脚本を考察

 昨年の『真田丸』(NHK/16年)の成功で大河ドラマが勢い付いている。

 今年は森下佳子の『おんな城主 直虎』(以下、『直虎』)、来年は中園ミホの『西郷どん』、再来年はオリンピックを題材にした宮藤官九郎・脚本のドラマと話題作が続く。いずれも連続テレビ小説(以下、朝ドラ)で成功した脚本家を中心としたチームによって制作される。おそらく、NHKとしては現在の朝ドラのように大河ドラマを盛り上げていきたいところだろう。その意味で『直虎』にかかる期待とプレッシャーは大きいのだが、第一話を見る限り、森下佳子らしい順当な滑り出しだったのではないかと感じた。

 物語の舞台は戦国時代後期(天文十三年)の遠江の伊井谷。500年にわたって伊井谷を守ってきた伊井一族は、現在は隣国・駿河の今川家の統治下に入っていた。後に伊井直虎となるおとわ(新井美羽)は、いいなずけの亀之丞(藤本哉汰)、幼なじみの鶴丸(小林颯)と楽しい日々を過ごしていたが、幸福な子ども時代は突然、終りを告げる。

 史実を元にした大河ドラマは、登場人物が多く、専門用語が多いため、その時代の知識がないと見続けるのが難しい。筆者自身も伊井家に対する前知識はほとんどなく、名前がわかるのは今川義元ぐらいだったため、少し敷居が高いと感じていた。しかし、すんなりと作品に入っていけたのは、主人公の幼少期から物語がスタートしたからだろう。

 子ども視点で物語を紡ぐことの利点は、子どもが見聞きすることでこの世界のことを知っていく過程を追体験することで視聴者が物語の中に入りやすくなることにある。その意味で『ドラゴンクエスト』を筆頭とするRPGのようで、おとわたちが遊ぶ森の中の描写も幻想的で、ファンタジー作品を見ているかのようである。仲村梅雀のナレーションも、昔話を語っているかのように呑気な趣でファンタジー感を際立たせる。

 『NHK大河ドラマ・ストーリー おんな城主直虎 前編』(NHK出版))のインタビューによると、劇中でおとわたちが探す竜宮小僧の立場で語っているそうだが、目には見えない精霊的存在が、子どもたちを見守っているかのような優しさがある。しかし、大人の世界の過酷な現実はじわじわと押し寄せており、亀之丞の父は今川家に謀反を企てた疑惑がもたれ処刑されてしまう。今川家から亀之丞の首を差し出せと言われた伊井家が亀之丞を密かに逃したことで、おとわと亀之丞は離ればなれになってしまう。

 『ごちそうさん』(13年)のチームが中心となって制作している『直虎』だが、見ていて感じたのは朝ドラで培われてきた視聴者を引き込む導入部がうまく取り込まれているということだ。朝ドラは初週で主人公の幼少期を描き、そこで一生を左右する原体験を描くことで、ドラマの核となる部分を視聴者に見せる。つまり、朝ドラの幼少期には作品のすべてが詰まっていると言える。森下も『ごちそうさん』の初週で主人公の幼少期を描き、食べることに対するあくなき思いを描いていたが、本作ではおとわ、亀乃丞、鶴丸の三人の物語だということが印象づけられる。また、亀乃丞を守るためにおとわは竜宮小僧になる、と誓うのだが、これは、女でありながら戦国武将となる伊井直虎の誕生を暗示しているのだろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる