“現代の魔術師” 落合陽一が語る、近未来SFドラマ『ウエストワールド』と現代テクノロジーの親和性

落合陽一が語る近未来SF

■「シンギュラリティは必ず来る」

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ーー今回の作品はVFXによって壮大なテーマパークが描かれていました。落合さんはCG技術にも詳しいですよね。

落合:遠景で動いているものはみんなCGだと思っていたのですが、室内で馬をプログラミングしているシーンはどっちなんだろうって。どこからどこまでがCGなのか考えながら見ていたのですが、巧妙に作られていて見分けがつかなかったです。

そういえば、今年『インターステラー』のCGを製作したダブル・ネガティブ社に行ってきました。そこで驚いたのは、アカデミックな環境で勉強したりキャリアを歩んできたスタッフがCGを作っているんですよ。『インターステラー』でも、ブラックホール理論を研究しているキップ・ソーン先生の論文を噛み砕いた上で映像を製作していたように、科学的根拠のある設計図からCGを作ることができるのは、この業界の大きな変化なんだと思います。要するに、これまでクリエイター気質だったものが、今はちゃんとメーカーみたいな体制になっていて、理系専門の部門とクリエイティブの部門がシームレスに繋がっている。だからこそ、『インターステラー』や『ウエストワールド』みたいに、事実に即したダイナミズムのあるCGが作れるのかなって。

ーー科学の研究結果をCGに利用して、逆にCGから研究の新しい発見がある、というような相互関係はあるのでしょうか?

落合:それは日常的にありますね。実際、どこかの研究チームが製作した技術を、そのまま映画やアニメーションに使っていることはあります。僕はいつも“SIGGRAPH”という学会で研究を発表しているのですが、この学会で出てくるアルゴリズムは、ハリウッド映画にそのまま使われていたりします。たとえば、『アナと雪の女王』の“雪のバラけ方”が論文として発表されているんですけど、ディズニーが研究結果をもとに映像を作って、論文を書くと同時に発表するみたいな流れはよくあることです。『ウエストワールド』でも、カウボーイたちが牧畜を追い回すシーンがあったと思うのですが、ああいうCGの馬をランダムに動かすアルゴリズムも、コンピューターグラフィックスの論文として発表されていますよ。実際に手でアニメーションをつけると、すごい疲れるんです(笑)。どの処理においても、人間が計算した数値を使ってコンピューターが設計している。

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ーー落合さんは、「“映像の世紀”から“魔法の世紀”へ」と提言されていますが、“魔法の世紀”において、映像技術はどのように変化していくのでしょうか?

落合:ハリウッドのCGスタジオも、映画だけではなく、ゲームやVRの方にどんどん投資を移していく時期だと思います。実際、産業規模が限られている映画だけでは稼ぎにくくなってきたから、VRに力をいれはじめて、それが今のVRブームに繋がったのではないでしょうか。ただ、テクノロジーにおいては、明らかに“映像の世紀”以降のものになっているのに、まだその時代に生まれたコンテンツの力が強く残っている。例えば、2020年の東京五輪で虚像なのか実像なのか区別がつかないバーチャルリアリティーのコンテンツが披露されたとしても、今のままだとそこに出てくるのは、結局キティちゃんやドラえもんといった映像時代のキャラクターなんですよね。

ーーテクノロジーが発達しても、“映像の世紀”のコンテンツが残り続けていると。

落合:そうですね。僕の知る限りでは、“映像の世紀”以降に生まれたキャラクターは初音ミクとかアングリーバードくらいじゃないかな。かつてのキャラクターは映像の中でブランディングされていて、きっちり作り込まれています。一方、初音ミクの場合は少し違って、みんなの集合的無意識の中から彼女の人格が形成されたと言えます。初音ミク的なキャラクターがもっと生まれてくると、バーチャルリアリティーコンテンツもさらに増えていくのかなと。それこそ、人工知能と組み合わせることで、想像を越えたものが生まれるでしょう。

ーー人工知能が人間の能力を超えると、いわゆる技術的特異点=シンギュラリティ(テクノロジーの発展によって、人間の生活が後戻りできないほどに変容すること)が起こると言われています。そのことについてはどう捉えていますか?

落合:シンギュラリティは必ず来るでしょうね。というか、今もいたるところでシンギュラリティは起きている。たとえばスマートフォンはその代表的なもので、一般的に流通するようになったから、VRゴーグルもできたし、みんなのデータもどんどんアップロードされるようになった。現代技術の結晶はスマートフォンといっても過言じゃないでしょう。ファラデーが『ろうそくの科学』で「この一本のろうそくを語ることで近代科学のすべてが語れる」みたいなことを言っているのですが、今ならスマートフォンについて語れれば、近代のテクノロジーや世の中の流れを大体は語れると思います。スマートフォンが人類の生活のなにを革新したのか、考えながら『ウエストワールド』を観ても、いろいろと発見できることがあるのではないでしょうか。

(取材・文=泉夏音)

『ウエストワールド』プロモーション映像

■落合陽一
1987年東京都生まれ。東京大学大学院修了、博士(学際情報学)。2015年筑波大学助教。映像と物質の境界線を探求しメディアアート表現を行う一方、デジタルネイチャー研究室主宰し、人間、自然、デジタルリソース(コンピューター)がシームレスにつながり合う「デジタルネイチャー」という世界観に向かい研究している。著書に『魔法の世紀』、『これからの世界をつくる仲間たちへ』がある。参考:Twitter

■放送情報
『ウエストワールド』
10月13日(木)より、毎週⽊曜23:00ほか、スターチャンネルにて独占日本初放送(全10話)
※10月13日(木)&29日(土)は第1話無料放送
原案:マイケル・クライトン
製作総指揮:J・J・エイブラムス、ジョナサン・ノーラン、リサ・ジョイ、ジェリー・ワイントローブ
監督・脚本:ジョナサン・ノーラン、リサ・ジョイ(脚本)
出演:アンソニー・ホプキンス、エド・ハリス、エヴァン・レイチェル・ウッド、ジェームズ・マースデン、タンディ・ニュートン、ジェフリー・ライト、ジミ・シンプソン
公式サイト(スターチャンネル):http://www.star-ch.jp/westworld/
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