『君の名は。』なぜ社会現象に? 映像プロデューサーが考察する、大ヒットした3つの理由
9月22日に興行収入100億円を突破し、動員数774万人の大ヒットを記録している映画『君の名は。』。日本の劇アニメで100億円を突破したのは、宮崎駿監督作品以外で初めてのこと(参考:興行通信社「歴代ランキング」)。『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』などの新海誠がメガホンを取り、音楽は若年層を中心に高い人気を誇るRADWIMPSが担当している。そして、プロデューサーには『モテキ』『バケモノの子』『怒り』などのヒット作をプロデュースしてきた川村元気が務めている。
広告代理店で映画やドラマの企画・プロデュースを行っている昇大司氏が、この大ヒットの理由を考察する。(編集部)
2016年9月23日10時40分、新宿ピカデリーにおいて、ほぼすべての映画のすべての時間帯が◎(余裕あり)となっている中、唯一、ほとんどの時間で△(残りわずか)となっている映画がある。『君の名は。』だ。
興行収入100億を超えるのなら当然かもしれないが、連休の中日とはいえ平日の午前中、公開から約1ヶ月を過ぎてなおのこの盛況は、社会現状といってもいいのではないだろうか。劇場に入るとほぼ満席、老若男女がひしめいている。「秒速5センチメートル」を渋谷シネマライズで観た時とは、明らかに違う熱狂がある。
理由1:新海誠が持つポテンシャルの高さ
自主アニメという極めてレアな立ち位置で登場したのが、1998年。出資者や制作者やスポンサーなどといった関係者大勢が関わり、マーチャンダイジングを目的に大資本が動く日本のアニメとは対極のありように、面白い試みだが、長くは続かず、いづれは大資本に飲み込まれると思っていたが、その後も、独自の立ち位置を開拓し続けたのはご承知の通り。過去、いわゆるわかりやすい大ヒットというものはないが、小規模の公開館数に関わらず、しっかりとした興収をあげ、ビデオグラムの数字も好調であり、いずれなんらかの形で大きな舞台に立つべき存在になっていたのである。
理由2:空いたマーケットへの参入
宮崎駿の引退により、空白が生まれた日本の劇場アニメ市場。細田守がその座の一部を占めたことは間違いないだろうが、例えば『おおかみこどもの雨と雪』は、結婚や出産そして子育てにリアリティを感じる世代でないと、興味を持ってもらうことはなかなか難しいだろう。そのため、未だワカモノ向けあるいは10〜20代カップル向けアニメ映画の旗手は空白だったわけだが、その座は、新海誠が務めることになりそうである。主演キャストに声優ではなく俳優を迎え、実写映画的なキャストの宣伝稼働によって、いわゆるアニメ映画(オタク向け)ではなく、ジブリ的映画(一般向け)との印象を与えたことも、功を奏したはずだ。