「今の映画界では第二のショーケンさんは絶対に生まれない」——三浦友和『葛城事件』インタビュー

三浦友和『葛城事件』インタビュー

 父親として、上司として、そして時にはヤクザの親分として。近年の日本の映画やドラマの秀作において、三浦友和は「作品の重し」としてのその世代(60代)の役者において最もエッジの効いた存在感を放ってきた役者と言っていいだろう。現在公開中、赤堀雅秋監督の『葛城事件』は、そんな2010年代の“新しい三浦友和”像を決定づける傑作だ。本作で三浦が演じているのは、原作の舞台(THE SHAMPOO HAT)では作・演出の赤堀監督自身が演じていた主人公。精神を病んでいく妻、会社からリストラされる長男、そして無差別殺傷事件を起こして死刑囚となる次男、そんな目を背けたくなるほど悲惨な状況に陥っていく家族の中で、ただ一人正気を保ち続けているように見えて、実はすべての元凶とも言える狂気を体現した“一家の主”を演じている。

 70年代生まれの自分は、三浦友和が日本を代表する“青春スター”であった時代をギリギリ記憶している世代だ。当時、自分の世代よりちょっと上の男たちは誰もが、ショーケン(萩原健一)、松田優作、原田芳雄といったアウトローの映画スターたちに憧れていた。そんな時代に“清く正しく美しい青年像”を引き受けざるをえなかった三浦友和は、自分と同世代の無頼派ヒーローたちをどのような思いで見つめていたのか? メジャー作品から(本作のような)インディペンデント作品まで、正義漢から(本作のような)極悪な役まで、日本映画界において満を持して縦横無尽に活躍するようになった今だから語れる、積年の思いとこれまでの歩みについて語ってくれた。(宇野維正)

「赤堀監督ほど具体的な指示を出さない監督に出会ったのは初めてでした」

三浦友和

 

――今年は本当に日本映画が充実している年でーー。

三浦友和(以下、三浦):はぁ、そうですか。

——はい(笑)。で、そんな中でも、『64 –ロクヨン-』、そして今回の『葛城事件』で示された三浦友和さんの存在感は特別で。今や三浦さんは、メジャー作品、インディペンデント作品問わず、日本映画界全体を支えている、その世代を代表する役者だというのが自分の認識です。

三浦:ありがとうございます(笑)。

——『葛城事件』に感銘を受けたのは、観客の共感を最初から拒絶しているところで。日本映画でそれをここまでやりきっている作品ってなかなかなくて、それはこの主人公を三浦さんが演じているからこそ可能だったと思うんです。

三浦:いや、それはあのホン(脚本)を書いた監督の問題ですよ(笑)。舞台では監督自身がやられていたわけですしね(THE SHAMPOO HATが2013年に上演した『葛城事件』の作、演出、主演は赤堀雅秋)。お話をいただいた時に一番難しいだろうと思ったのは、そんなこの物語をゼロから作り上げて自身で演じていた監督の持っているイメージと、自分の持っているイメージに、ギャップが相当あるんじゃないかなってことでした。現場で、相当話し合いとかをすることになるんだろうなって。でも、そういうことはほとんどなかったんですよ。どうやら、監督と相性が良かったみたいですね(笑)。

——舞台はご覧になっていたんですか?

三浦:いや、見てないです。見てなくて良かったなって思いと、見ておいた方がよかったなって思いと、両方あったんですけどね。でも、実はつい最近、初めてちょっと映像を見たんですよ。新井(浩文。舞台では次男、映画では長男を演じている)くんが若葉(竜也。映画で次男を演じている)くんにDVDを貸していて、監督とみんなで一緒に飲み屋にいる時にそれを若葉くんが新井くんに返していて、その時に、お店のテレビで見てみようってことになって……。いやぁ、見てなくてよかったなって思いましたね(笑)。

——赤堀監督との“相性の良さ”というのは、具体的に現場ではどのようところで感じましたか?

三浦:役者を45年間やっていますが、赤堀監督ほど具体的な指示を出さない監督に出会ったのは初めてでした。今回の現場は、監督もそうですし、他の出演者の方もそうなんですが、とても穏やかでしたね。もちろんシーンによってはテイクを重ねることもあって、自分の場合は多くて5テイクくらい、人によっては20テイクくらいやっていたりしましたけど、そういう場合でも、誰も感情的になっていない。特に具体的な細かい指示がないままリテイクを重ねるというのは、役者にとって簡単なことではないというか、場合によってはブチ切れたりもするわけですけど(笑)。

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『葛城事件』場面写真

——巨匠と呼ばれるような監督ならまだしも、赤堀監督は映画ではこれがまだ2作目ですしね。

三浦:でも、どのシーンも終わってみると「あぁ、何回もやってよかったな」って思えるんです。きっと、監督が求めているものがはっきりしていて、役者がそれに近づこうと素直に思える空気がそこにあるからでしょうね。基本的に、僕は映画って監督のものだと思っているので。きっと、そういう人が集まった現場だったということでしょうね。

——これまで、そうじゃない現場もたくさん見てこられた?

三浦:いや、そうでもないです。ヒステリックなタイプの監督って、僕は苦手なんですよ。で、きっとそういうタイプの監督は、怒られるのが好きなタイプの役者を呼ぶんじゃないですかね。

——(笑)。

三浦:それは、この世界で長年やってきて本当に思いますね。

——まぁ、今となっては、三浦さんを怒れる監督というのも、かなり限られてくるとは思いますが(笑)。

三浦:いや、いろいろ人づてに話だけは聞くんですけど、自分はこれまでほとんどそういうワーワー言うタイプの監督とは一緒に仕事をしたことがないんですよ。

——今回の作品もそうですが、今や歳下の監督とお仕事をするのが普通になっているわけですが。

三浦:現場全員の中でもほぼ最年長ですよ(笑)。

——それによって、やりにくくなったことってありますか?

三浦:わがままが言えない。

——逆に。

三浦:逆にじゃないですけど(笑)。でも、昔は「歳上なんだからなんとかしてくれよ」って思うこともありましたけど、最年長にもなると、歳下にキレたりするのはみっともないですからね。

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