ロバート・アルトマン監督が映画史に残した足跡とはーー初ドキュメンタリーに寄せられる期待
2006年11月、満81歳でこの世を去った“アメリカ・インディペンデント映画の父”ロバート・アルトマン。その生涯を関係者たちの証言や貴重な未公開映像などで綴った初のドキュメンタリー映画『ロバート・アルトマン/ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』が、10月3日(土)より日本公開される。
『M★A★S★H マッシュ』(1970年)、『ロング・グッドバイ』(1973年)、『ナッシュビル』(1975年)、『ザ・プレイヤー』(1992年)、『ショート・カッツ』(1994年)など、アルトマンはこれまで、多くの名作を世に送り出してきた。そのキャリアは、実に波乱万丈、数々の毀誉褒貶に満ちたものだった。嘘八百で映画業界にもぐりこみ、独学で映画制作を学び、ヒッチコックに見出されて大出世。ハリウッド・デビューするも、あっさりクビに。しかし、朝鮮戦争を舞台に3人の軍医の活躍を描いたブラック・コメディ『M★A★S★H マッシュ』が、カンヌ映画祭でパルムドールに輝いたことから、その人気と評価は急上昇する。途中、ロビン・ウィリズムス主演の実写版『ポパイ』(1980年)といった珍品を生み出しつつも、一貫して権力におもねらない独自の映画を作り続け、やがてベルリン、ヴェネチアでも最高賞を受賞。ついには、2006年のアカデミー賞で“名誉賞”を授与されるなど、彼はその型破りな映画作りと群像劇を得意とする革新的な映像表現で、世界をひれ伏させてきたのだった。
ポール・トーマス・アンダーソン、コーエン兄弟、ガス・ヴァン・サント、リチャード・リンクレイター、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥなど、現在第一線で活躍する映画監督たちからも、多大なリスペクトを受けていることで知られるアルトマン。特にポール・トーマス・アンダーソンは、『マグノリア』(1999年)や『インヒアレント・ヴァイス』(2014年)などで、その随所にアルトマンの影響を感じさせるどころか、アルトマンの遺作となった『今宵、フィッツジェラルド劇場で』(2006年)では、体調のすぐれなかったアルトマンに何かあった場合の「監督補佐」として、ノンクレジットながら参加していた。彼こそはアルトマンの“正当な後継者”と言って差し支えない存在だろう。