『ミニオンズ』興収40億円突破も視野に ロングヒットの背景と戦略を宣伝担当者に聞く
『ミニオンズ』が大ヒット中だ。7月31日に公開開始し、12日時点で興行収入は約23億。シリーズ1作目『怪盗グルーの月泥棒 3D』の興行収入が12億、前作『怪盗グルーのミニオン危機一発』が25億と「倍増」しており、今作もこのままいけば40億は突破すると思われる。同シリーズは、なぜ右肩上がりで人気を高められたのか? 『ミニオンズ』ヒットの背景にはどんな戦略があるのか、同作を輸入配給する東宝東和の宣伝部パブリシティ室長・松尾亘氏に聞いた。
まず気になるのは客層だ。松尾氏によると、ハリウッドアニメはディズニー/ピクサー以外は大人が来ないと言われており、観客の多くが4~11歳の子どもと親というファミリー層。『怪盗グルーの月泥棒 3D』公開にあたっても、「大人も楽しめる映画ではないか」という予感があったものの、まずはファミリー層を狙ったそうだ。また、映画に登場するキャラのなかでも個性が際立っていたミニオンに着目、プロモーションなどで打ち出した結果、12億という高い数字を叩きだした。
「リサーチをしていると、女子中高生以上の女性にミニオンがウケていることがわかりました。デートなど男性連れで来てほしいと思い、2作目ではミニオンをタイトルにも入れ、プロモーションでも前作以上に全面に押し出したんです。すると若干、年齢層が高くなり、デートムービーに近づきました。ファミリー層も、1を観た子どもたちが少し成長しても引き続き観てくれて、新たに小さな子も増加。数字が倍になったのは、これが理由だと思います」
さらなる拡大を目指すために研究するなかで、松尾氏が注目したのは『トイ・ストーリー』シリーズだった。同作は、1作目が15億、2作目が34億、3作目が108億と規模を拡大している。2作目から3作目で大きく数字を伸ばした背景を調べると、ディズニーランドにてアトラクションが展開されたことが影響していると推測した。
「テーマパークにいくと、大人も童心に戻って楽しめますよね。アトラクションを楽しんだ人が映画も観て、『子ども向けだと思っていたけど、大人が観てもすごくおもしろいんだよ』と口コミなどで評判を広めてくれる。『ミニオンズ』も本作を公開するにあたり、その領域を目指しました。そして今年3月から、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンにて、着ぐるみによるパフォーマンスやフード、グッズを展開する『ミニオン・プラザ』がオープン。開始直後から大好評で、7月中旬の時点では来場者の3分の1がグッズを買って帰ってくださるほどでした。2010年に1作目を公開してから5年間、定期的な情報配信によるテレビ露出などで、世間にミニオンが浸透するように"土壌"を育ててきたので、それが功を奏したのだと思います」
今の宣伝に重要なのは「テレビ」と「WEB」で、取り上げてもらうためのカギとなるのが「日本語吹き替え版」のキャスティングだという。「あの人が声をあてているから」という目的での動員増加もひとつだが、「吹き替えキャスト決定」「アフレコ開始」「メイキング公開」「完成記者発表」など小刻みに告知を打てるというメリットがある。
「また、キャスティングは巧さだけではなく、"どの層に刺さるか" も考えます。今回のキャストでは、天海祐希さんやバナナマンさん、真田広之さん、笑福亭鶴瓶さんは国民的な知名度を誇り、なおかつ天海さんが演じる"女ボス"という主人公キャラにもイメージが合う。一方、宮野真守さんとLiSAさんは100人中100人に知られている存在ではありませんが、アニメファンの間では絶大な人気を誇ります。単に有名人を起用するのではなく、さまざまな層にリーチすることを考えてご参加いただきました。」
こうしたプロモーション面での努力が実ったのは、ミニオンというキャラと作品に魅力があったことが大前提となる。松尾さんは「初めて観たとき、『ドリフ』の志村けんさんや『Mr.ビーン』を連想しました。しゃべっている内容というより、動きや存在がおもしろい。それで、『これ普遍的にウケるものなのでは』と予感していた」という。ミニオンを押し出していき、日本のアニメのキャラと同様なメジャーな存在にするという方向性を1作目から貫き、ブランド力を高めていったのも、今の人気を支えるひとつの要素だろう。
「ミニオンのキャラもそうですが、映画で流れる60年代の音楽など、大人でも楽しめる作品です。ぜひ幅広い層に観ていただきたいですね」と松尾さん。ちょこまかと動くミニオンズの快進撃は、まだまだ続きそうだ。
(取材・文=西田友紀)
■公開情報
『ミニオンズ』
公開中
配給:東宝東和
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