りくりゅう、ムック本の“匂わせ”と7年間の軌跡とは? 『フィギュアスケート Life』の発言を振り返る

今年のミラノ・コルティナ冬季五輪で、フィギュアスケート・ペアの金メダルに輝いた“りくりゅう”ペアこと三浦璃来と木原龍一が、自身のSNSで婚約を発表した。大変めでたいニュースである。
なにより、五輪で逆転の金メダルを決めた史上最高得点のフリー演技(FS)は、素人目に見ても目頭が熱くなる素晴らしいものだった。もともと優勝候補だったふたりはその前日、ショート演技(SP)でまさかのアクシデントによる失点を喫し、5位スタートとなっていた。なかば絶望的な状況から、自分たちを信じて最高のパフォーマンスを見せたその姿は何度でも目に焼き付けたい。
当然ながら、この後りくりゅうは人気爆発。ペアを組むふたりの信頼関係がなにより大切という競技の性質上、「りくりゅうは一体どんな関係なのか」が多くのひとにとって気になる点で、会見では際どい質問に対して「ご想像にお任せします」とかわす姿も話題になった。
そんなりくりゅうがこのたび婚約発表ということで、「やっぱり」というひともいれば「騙された」というひともいるかもしれない。しかしいずれにせよ、他人のハッピーなニュースは素直に祝福するのが人の道だ。SNSなどで、幸せなふたりに対するやっかみを発信しているアカウントは見るに堪えない。
と、正論をぶっておいてなんなのだが、ここからはふたりの過去発言のなかに婚約への“匂わせ”を探してみようと思う。はっきり言って、私が一番下世話である。五輪での名演に感動した者として婚約を祝福しつつ、同時に外野から茶化すことで世間の関心もひこうというゲスい記事なのである。
ネタ元は、扶桑社が発行する季刊のフィギュアスケート総合誌『フィギュアスケート Life』から、記念別冊ムックとして7月に刊行された『フィギュアスケート Life Extra 「Life on Ice りくりゅう」』。のちにも述べるが、この本自体は総合誌の取材力と蓄積が光る、きわめてまともな本だ。

ただ、巻頭を飾るふたりの引退記念インタビュー(今年5月収録)を読んでみると、早速“匂わせ”に見えなくもない発言が目に飛び込んでくる。
――ラストシーズンは本当に三浦さんの精神面の強さに驚きました。何かきっかけはあったのでしょうか。
三浦 きっかけで言うと、まぁ、たくさんあります(笑)。
木原 まぁ、いろいろありましたね(笑)。
三浦 いろいろあって、言えませんけど(笑)。
――言えないことがたくさんあったんですね(笑)。
三浦 ふふ(笑)。
なにわろてんねん、である。もちろん、ここで言われている“いろいろ”がなにかは全くもって明かされない。
元をたどれば、2人が競技のためのペアを結成したのは7年前の2019年。三浦が2001年生まれ、木原は1992年生まれなので、それぞれが18歳と27歳になった年だ。『Life on Ice りくりゅう』は、さすがフィギュアスケート総合誌発だけあって、この結成当時のインタビューまで掲載している。写真の三浦は化粧っ気もなく、まだ“あどけない少女”と言ってしまって良さそうな雰囲気すらある。そこでふたりはこんな発言をしている。
――お互いの性格はもう把握されていますか?
木原 僕は9歳上なんで(笑)。
三浦 おじちゃん、みたいな。
木原 保護者だよ。
――そんな感じなのですね(笑)。
すでに五輪出場経験もあった中堅選手の木原と、これからの若手である三浦。そんなふたりの“引っ張る立場/引っ張られる立場”という当時の関係性が端的にあらわれている。
しかし、7年も苦楽をともにすればその関係も変わっていく。ミラノ・コルティナ五輪では、SPでの失敗を引きずる木原をむしろ三浦が励ます姿があったと言われている。たとえば、関係者のこんな証言もムックには収録されている。
[SP後の]夜遅くにリュウイチがやや気持ちを取り直したという報告を受けていた(中略)のですが、[FS当日に]やって来たリュウイチの顔を見て「ああ、これは長い一日になりそうだ」と思ったのでした(笑)。/その一方でリクは本当に強い表情をしていました。
本当に強い表情。いつのまにか少女は、7年の競技生活のなかで、かっこいい大人になっていたのだ。婚約と聞いてふたりの年齢差を云々し批難する輩まで世間にはいるそうだが、それはさすがに三浦のことを馬鹿にしすぎではないだろうか。
もちろん木原のほうも、ただ支えられていただけではない。金メダルを獲得したペア個人戦の1週間ほど前に行われたフィギュア団体戦で、りくりゅう含む日本チームは銀メダルを獲得。その表彰式にて、前回の北京五輪で表彰台がざらついていたのを覚えていた木原が直前にスケート靴を予備のものに変えようと提案し、ふたりは本番用の靴を傷つけずに済んだという事件もあったという。
そんなわけで、『Life on Ice りくりゅう』を読むと、2019年のペア結成から2026年の金メダル獲得の裏話に至るまでの栄光(と時には挫折)の軌跡を時系列順のインタビューでたどることができる。さらにはふたりのインタビューだけでなく、いわば“チームりくりゅう”としてペアを支えたコーチ、振付師、日本スケート連盟強化部スタッフ、専属トレーナー、衣装デザイナーといったプロの面々の声が収録されているのも嬉しい。
最後にそのなかから、りくりゅうのペア結成を提案し、おなじく7年間苦楽をともにした名将ブルーノ・マルコット(じつは前出の証言をした“関係者”も彼である)の発言を紹介しておこう。
私はいつもローリング・ストーンズを引き合いに出しますが、個々のメンバーではなく、全員の組み合わせが彼らを特別なバンドにしています。それと同じで、リクとリュウイチが他の誰と組んでもあの結果は出せなかった。
彼がストーンズを引き合いに出すのは、おそらく五輪のSPで彼らが選んだ曲が「Paint It Black」だったことと無関係ではないはずだ。ミック・ジャガーとキース・リチャーズのように強い絆で結ばれたコンビとして、ふたりは五輪という最高の舞台で最高の演技をした。
そしてふたりは人生のパートナーにもなる。茶化しておいてなんなのだが、やはり手放しで祝福すべき素晴らしいことだ。競技人生を引退し、これからアイスショーで滑りながら普及活動をやっていくなかで、演者としても将来のコーチとしても決して満足(Satisfaction)することなく、アイスリンクを黒く塗りつぶし続けてほしい。
■書誌情報
『フィギュアスケートLife Extra 「Life on Ice りくりゅう」』
価格:3,300円(税込)
発売日:2026年7月30日
出版社:扶桑社























