『鹿楓堂よついろ日和』清水ユウに聞く、“癒やしのグルメ漫画”誕生秘話「グルメの作画とトーン作業は、正直とっても大変です!」

『鹿楓堂よついろ日和』創作の背景

 コミックバンチを代表する作品の一つである『鹿楓堂よついろ日和』。和風喫茶・鹿楓堂を舞台に、4人の美男子が料理やスイーツで訪れる客をもてなし、胃袋と心を満たしていく癒やしのグルメ漫画だ。

 四者四様の個性を持つキャラクターに加え、思わずお腹が空くようなリアルな作画。そして、日常と地続きになった繊細で優しいストーリー。本作はこれらの魅力を兼ね備え、2013年の連載開始以来、長年愛され続けてきた。その人気の拡大とともに、2018年にはアニメ化、2022年にはTVドラマ化も実現。2026年10月には、「CBGK シブゲキ!!」にて、オリジナルミュージカルが上演されることも決定した。

 読者の心を掴んで離さない本作の制作の裏側に迫るべく、リアルサウンドブックでは作者の清水ユウ氏にインタビューを実施。作品の誕生秘話や、あの極上のメニューができあがるまでのステップなど、詳細に語ってくれた。

いろいろなジャンルの漫画をごちゃまぜに読んで育ってきた

『鹿楓堂よついろ日和(1)』のカバーイラスト

――まずは、清水先生が漫画家を志すようになったきっかけと、プロデビューされるまでの流れを教えてください。

清水ユウ(以下、清水):物心ついたころから絵を描くのが好きで、姉の真似をしていつも絵ばかり描いている子どもでした。他に目指したい職業がなかったということもあって、高校生のころには本格的に漫画家を目指し始め、大学在学中に姉と一緒に出版社(マッグガーデン)へ読み切り漫画の持ち込みをしたところ、担当編集者がつき、大学卒業と同時に漫画家の道へ進んだという流れです。文章にするとスムーズに見えますが、初めての連載が決まるまではなかなか方向性も定まらず、没を繰り返しましたし、連載を始めてからも擦り合わせの難しさなどがあり、決して楽な道ではありませんでした。

――現在の作風にはどのようにしてたどり着いたのでしょうか。

清水:少女漫画から少年漫画、アクション・ギャグ・ファンタジーなどなど、いろいろなジャンルの漫画をごちゃまぜに読んで育ってきた結果、少女漫画っぽさがありつつも時々濃いめのギャグが入るような、謎のテイストが出来上がったような気がします。

――2013年、「ゴーゴーバンチ」にて『鹿楓堂よついろ日和』の連載がスタートしましたが、その連載決定に至った経緯について教えていただけますか。

清水:他社での連載中に、新潮社の現担当編集さんから声をかけていただいていたので、連載終了のタイミングで「ゴーゴーバンチ」への移籍を決めました。描きたい方向性をより活かせる自由度の高いバンチで、再出発するような気持ちで、よついろ日和の連載を始めました。美味しいグルメ要素とあたたかいヒューマンドラマを明確にテーマにしていこうと、構成などを編集さんと練って捏ねて考えて、二人三脚で試行錯誤してきた結果、この形に辿り着きました。

――その後、掲載誌が「月刊コミック@バンチ」「月刊コミックバンチ」と変わり、2024年3月にはWEB雑誌「コミックバンチkai」へ移籍となりました。この激動の時期に、清水先生は『鹿楓堂よついろ日和』をどのような気持ちで描き続けていたのでしょうか。また、掲載誌や編集体制の変化によって、先生自身や作品にどのような影響がありましたか?

清水:自分自身が紙の雑誌を読んで育ったので、雑誌が終わってしまうのは寂しさもありました。けれど形態が異なるとはいえ、『バンチKai』は雑誌のコミックバンチ同様に、自由かつ堅実さもあるWEB雑誌だったので、私自身は特にストレスを感じることもなく、すんなりと移行できました。 むしろ読者の皆さんのほうが戸惑われたのではないかと思いますが、あちこち移籍してもずっとよついろと一緒にいてくださって、本当に感謝してもしきれません。

4人のキャラは“心地のいい距離感”に

――ロマンス、ファンタジー、ドキュメンタリー……とさまざまなジャンルの漫画が連載されている「コミックバンチkai」において『鹿楓堂よついろ日和』はどんな役割を担っていると感じていますか? 『死役所』『応天の門』『怪獣自衛隊』など他の看板作品や、他のグルメ漫画に対して意識していたこともあれば教えていただきたいです。

清水:「みなさん、よくこんな設定思いつくなぁ」「作画が大変そうだなぁ」と驚く作品ばかりです。色んな先生方が骨太で濃厚な作品を連載されていますから、自分はちょっとした箸休めのポリポリたくあん的な存在になれたらいいなぁと思っています。

――グルメ漫画を描こうと思った理由と、その中でも和風喫茶店を舞台にした理由はなんですか? “鹿楓堂”という理想郷が、清水先生の頭の中でどのように生まれたのか教えてください。

『鹿楓堂よついろ日和(2)』

清水:“喫茶店と男子”というアイディアは、前編集者の発案がきっかけでした。最初は洋風カフェにギャルソン姿で考えていましたが、着物男子モノがあまりないということで和風喫茶店に変更し、鹿楓堂の原型ができたという流れです。自分が日本のレトロな建物が好きということもあって、古民家風の建物に竹林というスタイルになりました。あの規模の竹林は、リアルな街中にはなかなか存在しないと思うので、ある種の“異空間”だと思って描いている部分もあります。店の所在地を限定しすぎないことで「自分の町にも鹿楓堂ってあるのかもしれない」と思えるような存在にしたかったこともあり、鹿楓堂には明確にモデルにした場所がなかったりします。

――メニューのアイディアやレシピはフードコーディネーターの方にお願いしていると、あとがきで拝見しました。どんなリクエストをして、どんなやり取りがあって、完成するのでしょうか? また、料理やスイーツを描くとき、どんなことを意識していますか?

清水:あまり自分からアイディアが湧くタイプではないので、大抵は、まず編集さんに「なにかいいネタないですか?」と聞くところから打ち合わせが始まります。そこで、甘いものにするか食事系にするか、各話のバランスを見てメニューを決め、次にお客さんのお悩みを何にするか決めていくことが多いです。

 詳細なレシピが必要な回の場合、大まかなあらすじを捻り出したところでフードコーディネーターさんにレシピ考案をお願いしています。「家庭でもできるレベルで、出汁から丁寧につくるおでんのレシピが知りたい」「具や出汁のアイディア、味がしみるコツなどもあると嬉しい」など、結構ざっくりした内容で依頼をぶん投げてしまいますが、いつも丁寧に試作をして、美味しいレシピの提案や監修をしてくださいます。調理の工程写真などもいただいて、それを資料に作画していきます。

『鹿楓堂よついろ日和(3)』

――最も作画に苦労したメニューは?

清水:角崎の作るスイーツ全般です。一般人でしかない自分が、超スゴ腕パティシエのケーキのデザインを考えなければならないので、いつも白目をむきながら考案・作画しています。全体的にグルメの作画とトーン作業は、人物や背景よりも何倍も時間がかかるので、正直とっても大変です!(笑)

――メインキャラクターは四者四様の尖り方をしていて、一見完璧な美男子でも弱点があったりして、しっかりと人間味があるところが、彼らの魅力の一つだと感じています。4人のキャラクター像はどのように練り上げたのでしょうか。

清水:メガネ・長髪・猫目・短髪、というキャラビジュアルのバリエーションから考え始めた記憶があります。大まかな外見を固めながら、バランスを見て性格を考えて足して……という流れでした。多少ぶっ飛んだ方が面白いと思う部分は、わりとファンタジーの域に入るくらい盛っています(スイーツ無限胃袋の椿やフィジカルモンスターぐれなど)。

――4人を動かす上で意識していることはありますか?

清水:4人が同居しているというとウェットな関係になりそうですが、彼らには“心地のいい距離感”を持たせるようにしています。踏み込み過ぎない、だけど傍にいて寄り添うし、なにかあったら絶対に助ける。気の置けない仲間だからこそ、そういう気遣いができるのかなぁと思っています。

『鹿楓堂よついろ日和(4)』

――鹿楓堂に訪れるお客さんに関しても、キャラクター描写が細かく、巻を読み進めるごとに成長や変化が感じられる常連さんもいて、お店の外にある各々の生活の営みが感じられます。毎話お客さんを描く上で大切にしていることはなんですか? また、お客さんとメニューの組み合わせはどのように考えていますか? 

清水:読者に気持ちよく読んでもらうためにも「この気持ち分かるかも」「こういう人いるよね」と、なにかしら感情移入や親近感を持てる部分を入れるようにしています。お客さんとグルメの組み合わせは、先ほども言ったようにお悩みの内容やページ数、それまでのグルメのバランスを編集さんと話し合いながら決めています。

――これまで描いてきた中で、特に思い入れの深いお客さんはいますか?

清水:思い入れはそれぞれのキャラにありますが、79話に登場する女子大生はイレギュラーな演出をしたという理由もあって結構印象深いです。自分のアパートで、妄想の中の4人と掛け合いしながらカステラを作るという謎の展開でしたが、乙女ゲーっぽい4人を考案するのが楽しくも大変でした。個人的に、作者は自分の作品やキャラを俯瞰的に見る方がいいと思っているので、メインキャラやゲストキャラすべて、特別お気に入りの子は作らないようにしています。

――「まりちゃんが父親から贈られた髪飾りをなくしてしまう」「ストレスに弱い飼い猫を連れて転勤できない」といった、日常のささやかな出来事が大きな事件として丁寧に描かれているのが印象的です。こうした日常と地続きにある物語を描くにあたって、どのような点を軸にされているのでしょうか。

清水:「人によって悩みの大小は違う」ということでしょうか。他人にとってはささやかなことでも、その人にとってはものすごく重大なことだったりする。そういうものを、丁寧に拾っていきたいと思って描いている気がします。人の悩みや感情って複雑で、簡単に解決するものではないですし、ましてや、それを立ち寄った喫茶店で「スッキリ一発解消☆」なんて、無理な話なんですよね。それを抱えながらも日常生活は続いていくけれど、4人とのかかわりの中でほんの少しだけ気持ちが軽くなるような、救いがあるけど、ご都合主義になりすぎないようにバランスには気を付けていたりします。

多くの人の力と縁で「鹿楓堂」が出来あがっている

『鹿楓堂よついろ日和(22)』

――2013年の連載開始から13年にわたり、本作が長く愛され続けている理由をどのように捉えていますか?

清水:自分でもここまで続くとは思いもしなかったので、本当にありがたいことです。自分が描きたいものを描いているというよりは、読者がなにを求めているのか、それを常に考えています。「そうそうこの味!」という安定の美味しさを保ちつつも、新しい味わいも提供できるように、どうしたら楽しんでもらえるのかいつも考えていますが……これが本当に難しくて。万年手探りで、気付いたらこんな遠くまで、みなさんと一緒に辿り着いていた感じです。いろいろな人からアイディアをもらったり、手伝ってもらったり、編集さんとああだこうだと会議したり、多くの人の力と縁があっていまの「鹿楓堂」が出来あがっているので、自分ひとりではここまで来られなかったと思います。

―― アニメ化・ドラマ化とメディア展開もされていますが、それぞれをご覧になってどのような印象を持たれましたか? 原作との違いや、新たに表現されていたと感じた点についても教えてください。

清水:映像化されたときに、“時間”という概念があるところが決定的に違うと実感しました。漫画は読む時間を読者の自由なペースに委ねられますが、映像は作る側が「このカットは何秒」というのを全て意図的にコントロールしなければならない。その出来によって、観る側の心地よさも変わってしまうという、違った難しさがあるのだと知って、それがとても興味深かったです。アニメで声と動きがついたことで、キャラのイメージに深みが出たと思いますし、ドラマはキャストさんの個性もエッセンスとして交じりつつも、鹿楓堂らしさもしっかりと出してくださっていて、それぞれちょっと味付けの違う鹿楓堂が出来上がっていたなと感じています。それにしても、カラーと実写のグルメはやはり強いですね。圧倒的に美味しそう!

――多くのグルメ漫画がある中で、『鹿楓堂よついろ日和』ならではの魅力や、この作品にしか描けないものは何だと思いますか?

清水:自分が子供の頃に読んだような『中華一番!』や『美味しんぼ』のような本格グルメ漫画と比べると、よついろ日和はそこまでグルメ枠ではないような気もするのですが(笑)、でも、グルメにふりすぎず、ヒューマンドラマにもふりすぎず、シリアスすぎずギャグすぎないバランスが、結果的によついろ日和ならではの読み味になっているのかもしれません。美味しいものを食べてちょっとゴキゲンになる。それくらいのゆるさで、読んだ人の日常の一部に混ざれるような作品でありたいと思っています。あとは小さなこだわりとして、食べるシーンは清潔感が出るように気を付けて描いています。

――作中に、「甘味も珈琲もお茶も別になくても生きていけるけれど それがあるとちょっとだけほっとできる」というスイの言葉がありますが、これは漫画にも同じことが言えるのではないかと思います。このシーンに込めた思いや、清水先生が思う漫画の役割について教えてください。

清水:スイの言葉は、確かに漫画やあらゆる娯楽について表現しているセリフでもありました。こんなに魅力的なものが溢れる世の中で、美しい映像のコンテンツがたくさん生まれていても、モノクロ静止画で音声もない漫画が残り続けているのは、それでも漫画にしかない“たのしみ”があるからなんでしょうね。思い立った時にパッと好きなシーンを見たり、じっくり時間をかけて読んだり、手軽に自分のペースで物語の中に入り込んで浸れるのは漫画ならではの良さだと思います。音や声、色など、すべてが描かれないからこそ想像の余白があって、そこを膨らませて読み取っていくのも、漫画の面白いところなのかもしれません。役割というならば、やっぱり、人生のなかでほんの少し日々が楽しくなるための存在なのではないでしょうか。自分が作ったもので、誰かがふっと笑えたなら、それはとても幸せなことです。

■関連情報
『鹿楓堂よついろ日和』はコミックバンチKaiにて連載中!

『鹿楓堂よついろ日和』オリジナルミュージカル化決定!
<公演スケジュール>
2026年10月16日(金)~10月25日(日)
※開演時間詳細は追って発表いたします。
公演 HPはこちら:https://musical-rokuhodo.studio.site

<会場>
CBGK シブゲキ!!(東京都渋谷区)
〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂 2-29-5 ザ・プライム 6 階

<スタッフ>
原作:清水ユウ
脚本・歌詞:元吉庸泰
作曲・音楽監督:西寿菜
演出:原田優一
プロデューサー:坂紀史
企画協力:株式会社新潮社
企画・製作・主催:アーティストエージェント リンクス

<企画・製作・主催>
商号: 合同会社アーティストエージェント リンクス
URL: https://artistslinks.com/

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