【話題作試し読み】学園漫画『マイペースと歩く』中学生の淡い恋心と優しいまなざしが生む温かな読後感

いつのまにか胸の奥に残っている。そんな、青春の甘酸っぱさを呼び起こす物語がある。三本阪奈による『マイペースと歩く』は、中学生男女のほろ苦くやわらかな日常を、静かな筆致で紡いだ学園ドラマだ。人目を気にしてしまう少女の近藤と、朝の寝ぐせそのままに登校し、独特のペースで日々を過ごす少年の高橋。このふたりの距離が、少しずつ近づいていく過程に、読者はゆっくりと二人のペースに引き込まれていく。

【試し読み】思春期ならではの悩みや恋愛に夢中『マイペースと歩く』
物語の核となるのは、誰もが経験したことのある 「他者との関わり方」への戸惑いだ。思春期特有の揺れ動く感情、ぎこちない会話、気まずさと温かさが同居する瞬間。こうした瞬間を、三本は端正なコマ割りと繊細なキャラクター描写で描き出す。声高なドラマや劇的な出来事がなくとも、日々の何気ないやり取りそのものが、物語を豊かにしていく。それはまるで、読者自身の中学生時代の記憶がそっと呼び起こされるようだ。
■マイペースというキーワードをめぐる物語
本作のタイトルにもある「マイペース」という言葉は、高橋の人物性を象徴している。しかし、彼のマイペースさは単なる自由奔放とは異なる。たとえば、登校前に高架下の猫と遊ぶなどのエピソードは、学校生活の「ルール」から一歩外れた行動に見えるが、その行動は彼自身の世界観や感受性の豊かさを示している。高橋は他人を拒絶しているわけではなく、むしろ 自然体で日常と関わりたいという抑えきれない願望を持っているように感じられる。

一方で、近藤は他者の視線を強く意識しがちなキャラクターだ。前髪を気にし、周囲の評価に敏感になる彼女には、自分を守るための内部のツッコミが随所に描かれる。そのツッコミは、読者が思わず共感してしまう普遍性があり、心の中の声として読む者の感情に響く。こうした内面の細やかな描写が、 思春期の揺れる意識と自己意識のバランスを巧妙に映し出している。
『マイペースと歩く』が多くの読者から高評価を受けている理由は、思春期の普遍性を描く力にあるだろう。クチコミを見ても、中学生時代を思い出したという感想が多く寄せられているが、それは特別な出来事ではなく、日常の細部が鮮烈に感覚として蘇るからに他ならない。
例えば席替えというごく些細な学校行事ですら、主人公たちの心には重い意味を持つ瞬間となる。日々のルーティン、クラスメイトとの雑談、通学路の風景。これらは劇的な出来事ではないが、思春期特有の感受性によって一瞬一瞬が色濃く記憶される。この感覚を、三本は丁寧に積み重ねることで、読者を読後まで余韻に浸らせる作品へと昇華している。
また、近藤と高橋の距離が縮まっていく過程は、どこかぎこちなく、それでいて確かな温かさに満ちている。特別な告白や決定的な事件がなくとも、ふたりが互いを理解し合う瞬間が静かに描かれる。この「静かな成長」は、学園ものとしての魅力を最大限に引き出しているといえる。
■三本阪奈という作家がもつやさしさ

『マイペースと歩く』は、三本阪奈のこれまでの作風とも共通する「日常へのまなざし」が色濃く表れている。彼女は以前の作品『ご成長ありがとうございます』でも、人間関係や小さな日常の機微を柔らかなタッチで描き出してきた。今回もその作家性は健在であり、 キャラクターを第一に考える優しい視点が随所に息づいている。
『マイペースと歩く』が読後に残すものは、 思い出としての青春そのものではなく、日常の価値についての気づきだ。誰かと一緒に歩くという行為は、単純な行動のようでいて、その裏にはお互いのペースや価値観を受け入れるという合意がある。高校や大学時代のような劇的な出来事に満ちた時間ではなく、夕焼けの時間や、帰り道の何気ない会話の中にこそ、人生らしさが宿る。
三本阪奈は、本作を通して静かにこう語りかけている。「君のペースでいい。他者との距離は、歩きながら見つければいい」と。そんな余韻を残してくれる一作である。
【試し読み】思春期ならではの悩みや恋愛に夢中『マイペースと歩く』
『マイペースと歩く』は下記をチェック!https://kuragebunch.com/episode/2550912964801853478
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