『ひらやすみ』は“真夜中の連続テレビ小説”だーー岡山天音×森七菜が紡ぐ、独特の空気感

『ひらやすみ』は真夜中の連続テレビ小説だ

 俳優になる夢を追いかけて上京するも夢破れた青年が、偶然知り合ったお婆さんから平屋を譲り受けることから始まる『ひらやすみ』(真造圭伍/小学館)。2025年11月3日からNHK総合でドラマが開始され、毎週月曜から木曜の午後10時45分から15分枠で放映されている。キャラクター1人1人の心温まる描写が多くの読者の胸を打つ本作の魅力に触れていきたい。

平屋を譲り受けた青年が過ごす愛おしい日常

 29歳フリーターの生田ヒロトは、俳優を志して山形から上京するものの夢敗れ、現在はつり堀でバイトをしながらゆるりと日々を暮らしている。ひょんなきっかけで仲良くなったおばあちゃんから譲り受けた、阿佐ヶ谷駅から徒歩20分の立地の平屋で自由気ままな人生を送っているヒロト。東京の美大に合格し上京してきたいとこの小林なつみと2人暮らしをすることになる。

 一見何の悩みもなさそうに自由を満喫しながらゆるく生きているヒロトと、小生意気で見栄っ張り、その実色々と気にしがちのなつみの2人の掛け合いが見ていてほっこりする。
そして油断しているとふとした瞬間にハッとさせられる、そんな独特の空気感が何よりの魅力だといえるだろう。

 ある日、なつみは買い物の帰り道でヒロトに「悩みとかないの?」と尋ねる。誰しも悩みの1つや2つくらいはあるものだが、ヒロトは少し考えた後「ないなぁ悩み」と言葉を返す。

 その理由は「くよくよ考えたってしょうがない」から。でも、ヒロトは夕飯のことについては普段からめちゃくちゃ考えているそうだ。何故なら、くよくよしないから。

 ともすればあまり深く物事を考えていないように聞こえるかも知れない。ただ、この台詞にはヒロトの人間性が深く反映されているようにも感じるのだ。どうしようもないことに心を向けるよりも、今この瞬間身近に起こっている物事に対して真剣に向き合っていく、という生き方の指針のようなものを孕んでいるようにも受け取れる。

 大学でなかなか友達が作れず、うじうじ悩んだ挙句に学校をサボっていたなつみは、ヒロトの「くよくよ論」を聞いた次の日からちゃんと美大に通い始めることを決めた。なつみの中でも、ヒロトの言葉から感じ入るものがあったからなのだろう。

 昨日までは何も感じなかった街中の風景が、今日は少しだけ輝いて見える。そんな日常をちょっぴり豊かに感じさせてくれるのが『ひらやすみ』のたまらない魅力なのだ。

真夜中の連続テレビ小説と表現したくなる世界観に心ほぐれる

 ドラマでは生田ヒロト役を岡山天音、小林なつみ役を森七菜が務めている。大層な事件が起こるわけでもない、誰もが経験するような日常のありふれたシーンを自然体で演じられている姿が印象的だ。

 柔らかくも、時にどこか切なくなる、そんな空気感を視聴者に感じさせてくれる。さながら真夜中の連続テレビ小説といった塩梅で心に染み込んでくる。

 世間的には30手前と言えば色々考えることの多い年頃だ。ヒロト自身も、今のゆるく生きられる時間が永遠ではないことはなんとなく感じているのだろう。時折見せる寂しげな表情や、ヒロトの親友のヒデキの結婚、出産、転職といった人生の転機を目の当たりにしてもの思うシーンなどからその心情が透けて見える。

 夜ドラマ『ひらやすみ』は5週にわたって全20話で放送される。願わくば朝の連続テレビ小説のように全130話くらいお届けして貰いたい。そう思わずにはいられないほどに愛おしい感情が溢れてくる本作、ドラマ版も原作の雰囲気を大切に作られており、原作、ドラマどちらから入っても楽しめることだろう。

 日常を面白く生きることが、実は一番難しいと常々感じることがある。『ひらやすみ』は日々をもっと豊かにさせてくれるエッセンスに溢れた作品だ。人生を優しく彩ってくれる本作を、ぜひ手にとってみてほしい。

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