岡崎京子の漫画はなぜ注目を集め続ける? 90年代以降のファッション/カルチャーに与えた絶大な影響

岡崎京子作品はなぜ注目を集め続ける?

 90年代を代表する漫画家、岡崎京子は『ヘルタースケルター』『リバース・エッジ』をはじめ数々の名作を編み出してきた。現在は休筆中だが、ガールズバンド東京初期衝動が1月8日に発売した新EP『pink』のジャケット写真にイラストを採用し、その収録曲に『岡崎京子のあの娘になりたかった』が収録されるなど、今なおカルチャーやファッションシーンに高い影響力を持っている存在だ。本稿では、彼女の作品の魅力と影響力について紹介したい。

ファッション誌『CUTiE』の漫画で連載 90年代のアイコン的存在に

 『リバース・エッジ』、『東京ガールズブラボー』に『ROCK』……。岡崎京子がこうした作品を90年代に連載し認知度を上げていったのが、1989年に創刊され当時10代の女性向けに原宿系ストリートファッションを提唱し人気を博していた雑誌『CUTiE』(2015年休刊)だ。

 『CUTiE』は、当時『Cancam』が提唱していたコンサバファッションとは対照的な、個性あるカジュアルな着こなしを提唱。「異性ウケや大人ウケではなく、自分が楽しくなるためのファッション」というメッセージ性で当時10代、20代の女性を中心に支持されていた。

 まだファッション雑誌に漫画が掲載されることがそうなかった時代に岡崎作品は『CUTiE』誌面に連載され、流行や若者像をスタイリッシュに描き出した作風で認知を広げていった。彼女はもともと女性向けと男性向けどちらの漫画誌にも連載をし人気を博していたが、次第に垣根を超えた活躍を広げていく。

 いとうせいこうがVJを務めたスペースシャワーTV黎明期の伝説的番組『ゲバゲバゲリラ』への出演、カルチャー誌『STUDIO VOICE』に大きく取り上げられるなど、今では漫画業界を超えて90年代を象徴するアイコン的存在となっている。

 90年代以降、安野モヨコをはじめファッション誌など漫画誌以外に連載を持つ漫画家が続々と誕生することになるが、岡崎京子は、時代の世相や若者像を作品内で表現し、漫画とファッションや時代の流行を結びつけた先駆者と言っても過言ではないだろう。

等身大の女性描写 自分ウケガーリーが肯定される時代を牽引

 美容整形を繰り返しながら美を希求する『ヘルタースケルター』のりりこや、ペットのワニのエサ代と欲しい服を全部手に入れるためOL兼ホテトル嬢として金を稼ぐ『pink』のユミちゃんなど、岡崎京子が描く主人公はいつも、「自分がほしいもの」「自分らしさ」を手にいれるために必死だ。

 岡崎京子の作品が多く生まれた90年代、ストリートファッションやDCブランドブームが起こり、雑誌のストリートスナップは最盛期だった。中高生たちは、自慢のファッションで原宿に繰り出し、毎日「自分らしさ」を表現するために切磋琢磨していた時代だ。岡崎作品に登場する、ガーリーなワンピースやパニエで膨らませたスカートを着こなしながら、都会を闊歩するロリータファッションの女の子たちも、まさに当時原宿にいた若者像の一つだ。

 一般的な「ロリータファッション」は、ファッションジャンルや、ステレオタイプな女性像へのカウンターカルチャーなどの文脈で語られることが多いが、岡崎京子の作品内に登場するロリータファッションの女性たちは、「自己表現としてのファッション」や「自分らしさ」にこだわる普通の女性として描かれている。

 資本主義に揉まれ、大人たちに揶揄されながらも、着たい服を着て生きたいように生きる。岡崎が描いた作品が今も映画化されたり、女性キャラクターたちが20年以上経った現代でも支持されているのは、昔も今も変わらず自分らしさを追求しもがく女性たちの生き様が生々しく描かれているからかもしれない。

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