『キミに恋する三姉妹』なぜ“最強ラブコメ”なのか? 作者・sakuに聞く、読者の「楽しい」に行き着く方法

無料マンガサイト「チャンピオンクロス」(秋田書店)で連載中の『キミに恋する三姉妹』が、読者の心をつかんでいる。青春を勉強に捧げてきた男子高校生と、麗しきインフルエンサー三姉妹の“エロキュン同居生活”が描かれる楽しい作品だが、一方で丁寧に構築されたドラマがあり、ラブコメとしての質の高さが人気の要因だ。
サービスシーンあり、ミステリーあり、切実な人間ドラマありと見どころ満載の本作は、どのように生まれたのか。リアルサウンドブックでは、作者のsaku先生を直撃。それぞれに魅力的な三姉妹の誕生秘話から、物語を紡ぐ上でのこだわりまで、じっくり話を聞いた。(リアルサウンドブック編集部)
「ただラッキーなだけ」には見えないように
ーー『キミに恋する三姉妹』は健康的な色気のあるサービスシーンも読者の楽しみですが、主人公の樹と三姉妹の関係性が細やかに描かれており、魅力的なラブコメです。制作はどんなところからスタートしたのでしょうか。
saku:まず「ヒロインがたくさん登場するお話が描きたい」というところから始まって、動画撮影をはじめとするインフルエンサー活動のなかでラッキーな展開が作れたら面白いな、と考えました。樹は何かを頑張っている主人公にしたくて、「勉強に打ち込んでいる」という設定から始まっています。読者に愛されるキャラクターになってほしい、という思いが強かったですね。
ーー確かに、樹は真面目さがきちんと伝わってくるキャラクターで、いわゆる「ラッキースケベ」も都合がいい展開というよりご褒美という感覚があります。「ハーレムもの」と考えると、その中心にいる主人公はともすれば読者の反感を買ってしまうこともありますが、樹は応援したくなりますね。
saku:「きちんと芯が通ったキャラクターに」というお話は担当さんとよくしていますね。受け身でただ周囲からのアクションを待つだけでなく、困っている人に自分からアプローチして、勉強を教えてあげたり、一生懸命話を聞いてあげたり、意外とみんなができていないことが、ちゃんとできる。だからこそ、ヒロインたちも心が動くし、その先に何かが起こるわけなので、「ただラッキーなだけ」には見えないようになっていると思います。
ーーそして何より、天音、詩音、萌音の三姉妹が魅力的です。個性が際立っていて、それぞれにファンがついている三人だと思いますが、彼女たちはどんなふうに生まれたのでしょう?
saku:私の好きなポイントを、一人ひとりに乗せていきました。萌音だったらちょっと生意気を言うタイプで、詩音は友達みたいに寄り添ってくれるタイプ。そして天音は何を考えているかわからないところがある、ミステリアスなお姉さん。それぞれに、描いていて楽しいな、可愛いな、と思うポイントがあります。
ーーそんな三姉妹が「インフルエンサー」だという設定が今日的で面白いですね。少し前であれば「アイドル三姉妹」のような、もう少し芸能寄りの設定もあり得たと思うのですが、彼女たち自身が主体的に行動するインフルエンサー/クリエイターであることで、大人が介在せずにドラマがきちんと進んでいくというか。この設定はどう生まれたのでしょうか。
saku:私はもともと動画を見るのが好きで、「この人たちの裏側はどうなっているんだろう」「撮影しているのが美少女だったら、裏側でどんなハプニングが起きるかな?」と妄想を膨らませていきました。最近はファミリー系のチャンネルをよく見ていて、「長女がモデルになる」というエピソードが印象に残っているので、もしかしたら着想のヒントになっているかもしれません。美容系、メイク動画もYouTubeやtiktokでよく見ています。三姉妹それぞれのキャラクターもそうですが、自分がもともと好きなものを作品に落とし込めているから、描いていて楽しいんだと思います。
ーーただ楽しく華やかなだけでなく、クリエイターの苦労や寂しさのようなものも伝わってくるのは、その裏側に思いを馳せてきたからなんですね。
saku:実際に自分で動画を撮影したこともあって、編集がとても大変で、かつそれが伝わりにくい地味な作業だということも実感していました。視聴者が目にする動画は楽しいものになっているけれど、実は苦労の末に出来上がっているんだということがわかったんです。
ーーなるほど。動画には笑顔で出ていても、そんな気分じゃないときもありますよね。
saku:これは漫画にも通じるものだと思うんです。楽しいシーンを泣きながら描いているときもありますし、作品が手元を離れたときに「ちゃんと読んでもらえるのかな」という不安感もあって。
漫画家とインフルエンサーは近い存在
ーー読者の感想がアンケート等で返ってきたかつての漫画と違って、いまはネットでダイレクトに発信されますから、その点でもインフルエンサーと漫画家は近い存在になっているのかもしれませんね。
saku:それはすごく感じます。最新話が公開された瞬間に「面白かった!」という反応をいただけると、ちゃんと届いているんだという実感が持ててすごく嬉しいんです。「アンケートはがき」だとタイムラグがありますし、ネットだとより気軽に感想が書けるので、素直な意見として受け取ることができて。漫画家もインフルエンサーの方々に共感できる環境になってきていると思います。
ーー読者の反応で特に嬉しかったものはありますか?
saku:単行本を出したあとに、「ゲットしたよ~!」って写真付きでSNSで投稿してくれたり、「このシーンがよかった」と具体的に感想をいただけるのがすごく嬉しいです。やっぱり「ちゃんと読んでもらえているんだ」という感動がありますね。
ーー何気ない一コマにも心を砕いているわけで、やっぱり「具体的な感想」が嬉しいと。
saku:そうなんです。ちょっとしたギャグコマでも可愛く描こうとこだわったりしているので、細かなところに気づいていただけるのが嬉しいです。あとは、「読者さん」と言ってしまうと語弊があるかもしれませんが、版元の秋田書店さんに最近入られた編集者の方が、「前職のときからずっと好きで読んでいます!」と言ってくださったのは嬉しかったですね。あとは、推しキャラを教えていただけるのも嬉しいです。
ーー三姉妹はそれぞれに違う魅力があるので、推す人もばらけそうなイメージがありますが、特に人気なのは?
saku:SNSを見ると、詩音を推している方が多いみたいです。友達のような存在感だったり、髪型を縛っていたり、最初は男性に受け入れてもらえるキャラクターなのか不安だったのですが、私自身がすごく好きで、それを貫き通して描いたので、思い入れがあります。自分の気持ちに素直で、心の動きがダイレクトに出るキャラクターでもあるので、そういうところも描いていて楽しいですね。
ーーなるほど。本心を隠していたり、気を張っているキャラクターだと、描いていても気疲れしてしまいそうですね。
saku:そうですね。例えば天音というキャラクターは、私自身も最初はうまくつかめなくて苦労しました。担当さんに「天音って、こういう言動しますかね?」と指摘していただいて、「確かに」と思ってより深掘りして考えるなかで、少しずつ出来上がっていったんです。
ーー確かに、冒頭から「本当にあのときの少女は天音だったのか」というミステリーも含んで登場するキャラクターですから、「捉えどころのなさ」も必然的に出てきますね。それでもブレないイメージを作るのは大変そうです。
saku:特に第一話は何度も描き直して、固まるまで1年くらいかかりました。そのなかで天音は服装も変わっていきましたし、一つひとつの出来事に対するリアクションも精査して、小さなところから詰めていったんです。例えば、胸が見えそうになるサービスシーンも、最初はもう少し慌てて恥ずかしそうにしていたのですが、「大人のお姉さん」ならもっと余裕があるよね、という感じで微妙に調整したり。セリフの細かい言い回しを修正することも多かったですね。詩音、萌音が比較的わかりやすいキャラクターで、その分、年上で何を考えているかよくわからない天音は、喜怒哀楽をあまり表に出さずに、ナチュラルに描くことを意識して。今も悩んでいます(笑)。
ーーそれは樹の目線と言えるかもしれませんね。
saku:確かにそうですね。そんななかで、物語が進むにつれて少しずつ、彼女のことがわかるシーンも増えてきていますが、それでもどこまで真意を伝えるかという塩梅を考えながら描いています。ずっと何もわからないままだと樹との距離は縮まりませんし、少しは気持ちを見せてほしいけれど、ミステリアスなお姉さんというイメージは失われてほしくない。三姉妹それぞれとの関係性がどうなるのか、ということを読者の方にも楽しみにしていてほしいので、そのバランスはいつも考えていますね。