神社の起源には温泉アリ? 『ブラタモリ』でも注目、火山と断層と神社の知られざる関係性

火山と断層と神社の知られざる関係性

神社と大地の歴史の奥深い関係

蒲池明弘『火山と断層から見えた神社のはじまり』(双葉文庫)

 近年、何かと話題に上ることが多い、パワースポットや御朱印ブームでにぎわう神社、そして惜しまれつつ放送終了となった『ブラタモリ』の人気などに起因する地学ではないだろうか。その両方の魅力を一度に楽しめるうえに、日本列島の成り立ちから文化の形成まで俯瞰的に見ることができる本が出版された。『火山と断層から見えた神社のはじまり』(蒲池明弘/著、双葉文庫)である。

 日本には出雲大社を筆頭に、古代に創建された神社がいくつもある。しかし、そうした由緒よりも、真の神社の起源はさらに遡ることができるのではないだろうか――本書を著した蒲池明弘氏はこうした疑問を抱き、各地の神社を探訪し、それぞれの地域の大地の歴史を調べ、思索を深めてきた。今回は蒲池氏にインタビュー。本を著したきっかけから、知っているだけで神社巡りが面白くなる知識まで存分に語っていただいた。(メイン写真:高千穂峰の神社)

火山や地学に抱く好奇心

――蒲池さんは、最初の赴任地である読売新聞社のさいたま支局で記者を務めていた頃から、神社巡りを始められたそうですね。私も神社巡りが好きですが、大きな寺院は都があった場所に建立されているのに対し、歴史的にも重要な神社は、蒲池さんが指摘するように地方に点在しているのが興味深いです。

蒲池:神道は江戸時代の国学者がクローズアップしたことで、明治時代には国家神道になりました。その後、日本は戦争に負けましたが、神社本庁ができて、一部の人たちの間では依然として「天皇を中心とした神の国」のように思われています。ところが、神社巡りが好きな方々にはご存知のとおり、島根の出雲大社、三重の伊勢神宮、大分の宇佐神宮など、全国的な信仰圏を持つ大きな神社は軒並み地方にあるんですよ。こうした事実を目の当たりにすると、実際の神社の歴史と天皇中心主義的な考え方に大きな差異があると感じたのです。

出雲大社・勢溜

――この本には地学・地質学の話題がずいぶん盛り込まれていますが、もともとこうした分野はお好きだったのでしょうか。

蒲池:国立大学の受験のために理科2科目を選ぶとき、数学が苦手だったので、生物と地学を選びました。計算問題がほとんどありませんからね、そして勉強してみると地学は面白い。もともと歴史が好きでしたが、地学・地質学はいわば太古から現在に至る地球の歴史を繙くものであり、確実に人間の歴史と接続しているのです。

――そういえば、蒲池さんは火山がたくさんある九州の長崎で育ったそうですね。

蒲池:九州にいると、子どもの頃から阿蘇山や桜島、雲仙などに家族旅行や修学旅行で出かける機会があります。父親の実家のある福岡県八女市は阿蘇山から50キロ以上も離れていますが、約10万年前に起きたカルデラ巨大噴火、いわゆるaso4のときの火砕流が大量に押し寄せ、固まり、巨大な岩山となってその痕跡を残しています。火山が作り出した風景が身近にあったのです。なお、この本は神社というよりは、『古事記』の神話の中に火山の記憶があるのではという点に興味を持ち、資料を集め出したことがベースになっています。

――好奇心で調べたことが、本の出版へと結びついたわけですか。

蒲池:私は新聞記者を辞めた後、いわゆる“ひとり出版社”を起ち上げて2016年に『火山と日本の神話』(桃山堂)という本を出しました。本の宣伝をすべくブログでいろいろなことを書いていたら、文藝春秋の編集さんから「ブログを手直しすれば新書になりますよ」と連絡があって、『火山で読み解く古事記の謎』の出版に繋がりました。これを出したら、双葉社の編集さんからも声をかけていただき、神社に焦点を当てた今回の本が出たという流れです。

火山と日本人の結びつき

――火山の活動は人々に恩恵をもたらす一方で、災害と切っても切れない関係にあります。古来より、日本人にとって火山はどのような存在だったのでしょうか。

蒲池:九州では約3万年前の旧石器時代、約7000年前の縄文時代にも九州の半分近くが火砕流と火山灰で埋めつくされる規模のすさまじいカルデラ巨大噴火が起きています。1万年以上前から繁栄していた「南の縄文文化」は、巨大噴火とともにいったん滅びてしまいます。こうした大惨事を経験した縄文人は火山を恐るべき力をもった神として崇め、その鎮静であることを祈り、語りついだのではないかということは、文春新書『火山で読み解く古事記の謎』にまとめました。

南の縄文・上野原遺跡

――古代ローマの都市・ポンペイも火山の噴火で滅んでいますが、火山はひとたび噴火すると街を壊滅させるほどの力を持っていますよね。

蒲池:しかし、日本人と火山の関係は恐れ、崇めるだけではないと思います。出雲、諏訪、熊野など古い神社の前史を考えると、「火山の恵み」としてくくられる共通点があるのではと思うようになりました。火山は災いをもたらす恐ろしい存在であると同時に、日本列島の風土と文化を生み出した「母」なる存在でもあります。このほど双葉文庫として刊行された『火山と断層から見えた神社のはじまり』はそうした視点で書いたものです。

――火山がもたらす恵みの代表格として、挙げられるものといえばなんでしょうか。

蒲池:温泉が挙げられます。温泉地に行けば火山が創り出した風土が感じられますよね。火山は普通の山と違い、独特な造形を生み出す力があります。特に日本の火山の多くは、ハワイのようにさらさらと流れる溶岩とは正反対の、凝結度や粘着度の強い溶岩を放出するため、不思議な形状をした巨岩や山を形成するのです。

熊野湯の峰温泉

――日本には彫刻のような姿をした山が多いですよね。そして、そうした山は当然のように、昔から地域の信仰のシンボルになっています。

蒲池:自然が創り出した巨岩、奇岩は少なからぬ神社で、神の宿るイワクラあるいはご神体としてたいせつにされています。小型バスほどの岩が空中に浮かんだように見える神倉神社のイワクラをはじめとして熊野には面白い地形がありますが、その多くは1500万年前の太古に起きた、日本列島では空前絶後の超巨大噴火によってつくられたものです。その噴火の痕跡である「熊野カルデラ」は熊野信仰の霊場とほぼ重なっています。出雲も一般的にはあまり知られていませんが、巨石が点在している信仰地です。こちらも火山の活動が創り出したものです。

――そう考えると、日本の聖地には火山活動の痕跡がある場所が少なくないわけですね。しかもそれに、温泉などの観光まで結びついているのは日本特有の現象に思えます。

蒲池:火山が創り出した造形の不思議さは、現代人の私たちが見ても感じるじゃないですか。巨石や柱状節理、不思議な形の岩からは、人間離れした力を見出せます。そういった風景から何がしらの印象をもつことは、神社が創建される遥か前からあったと思います。

線状に分布している火山

――日本列島を見渡すと、至るところに火山があり、極めて身近な存在であることに驚かされます。

蒲池:火山は日本列島に広く分布していますが、どこにでもあるというわけではありません。2つの線状に分布しています。1つは、伊豆から関東を経て北海道へいくライン。もう1つは九州の火山列島から鹿児島に上陸し、阿蘇山を経て、島根県の三瓶山、鳥取県の大山まで至るものです。したがって、出雲は九州の火山文化の延長にあるといえるため、縄文文化的な要素が色濃いのです。九州と出雲周辺を除けば、西日本には活火山がないので、水田稲作を柱とする弥生文化が栄え、ヤマト王権の最初の勢力圏となります。火山と稲作文化の相性は良くないのです。

――線状に日本の文化圏が分かれていると。

蒲池:火山が特に多いのは九州の中でも鹿児島、宮崎、熊本ですが、いずれも縄文文化的な様相が強い地域です。馬や牛の飼育に適した火山性草原はあるのですが、土壌はひと昔前まで農業関係者に悪土として嫌われていた黒ボク土が主体で、耕作に苦労したといわれます。出雲も黒ボク土が少なくない地域です。黒ボク土は火山地帯に広がっている土壌ですから、ここからも出雲の火山的風土が読みとれます。

――そして、それらの縄文文化が色濃い地域には有名な神社が多いですね。

蒲池:水田稲作の先進地だった弥生文化的な西日本よりも、狩猟採集の縄文文化が花開いた地域に、より深くより豊かな神社の歴史が見えるような気がします。出雲は大森林地帯が広がる山岳地帯ですし、熊野もほとんど平地がありません。環境が縄文的で似ているんですよ。諏訪大社の鎮座する長野県が縄文的風土であることは言うまでもないことです。

――私が住んでいる埼玉県には、出雲大社系の神社が多いです。

蒲池:関東地方や東北地方にオオクニヌシを祀る出雲系の神社が意外なほど多いということは、しばしば話題になります。これもまた不思議なことですが、日本列島のふたつの火山のラインの中に出雲系神社の分布を重ねてみると、神社の世界には「縄文つながり」が秘められているのでは、という妄想をついしてしまいます。

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