ドラマ『ブラック・ジャック』ドクター・キリコはなぜ女性になったか? キャラクター性と“実写化”の意義を考察
高橋一生主演のテレビ朝日ドラマプレミアム『ブラック・ジャック』(監督・城定秀夫/脚本・森下佳子)が6月30日(日)に放送され、世帯平均視聴率10.3%をマークした。原作は、いわずと知れた手塚治虫による医療漫画の金字塔。主人公は、難易度の高い手術を請け負う代わりに、法外な額の報酬を請求する無免許の天才外科医――ブラック・ジャックだ。
なお、今回のドラマだが、放送前、(人気の高橋の新作ということで注目を集める一方)ブラック・ジャックのライバル的存在――ドクター・キリコの「女性化」について、長年原作を愛読しているファンの間でいわゆる“炎上”騒動が起きていた(注・原作のドクター・キリコは男性)。むろん、そうした騒ぎも前述の高視聴率につながる要因の1つになった、という見方もできなくはないのだが、何かと「原作改変」が問題視されている昨今である。SNSなどで放送後のファンの反応を見た限りでは、やはり賛否両論というよりは、どちらかといえば批判的な意見の方が多いようだ(もちろん、「実際に観たら意外と良かった」という反応もなくはないが)。
そこで本稿では、あらためてこのドクター・キリコというキャラクターについて考えてみたいと思う。
ブラック・ジャックと対をなす、安楽死専門の「黒い医者」
まず、原作におけるドクター・キリコは、長身痩躯、黒い眼帯と長い白髪(銀髪?)がトレードマークの「安楽死」専門の元軍医だ。かつて戦場で重傷を負った兵士たちを穏やかに死なせてやると感謝された経験から、自らの行為は間違っていないと確信しているが、かといって安易な自殺などは認めていない。また、「なおせる相手ならなおすよ」(「恐怖菌」)ともいっており、本質的にはブラック・ジャックと同じ、人間の命を大切に思っている医師である。
ただし、別の回では、「生きものは死ぬ時には自然に死ぬもんだ……それを人間だけが……」ともいっており(注・実写ドラマ版でも似たようなセリフは出てくる)、神に抗ってでも人の命を救おうとするブラック・ジャックの信条とは、その部分だけが大きく異なる点だといえるだろう。
さて、今回の実写ドラマ版では、前述のようにこのドクター・キリコは、女性キャラに変更されている(演者は石橋静河)。その点について、私は視聴前も視聴後も特に悪い印象は抱かなかったが、ドラマを観た原作ファンの多くは、作中でキリコが「自殺幇助」ともとれる行動を見せたことに違和感をおぼえたようだ。
※以下、実写ドラマ『ブラック・ジャック』のネタバレを含みます。同作を未見の方はご注意ください。(筆者)