「言葉は本質的に曖昧なもので、そこからは逃れられない」 言語学者・川添愛に聞く、曖昧さの面白さと注意点

言語学者・川添愛に聞く、曖昧な言葉の本質

言葉は本質的に曖昧なもの

ーー音楽の歌詞にも曖昧さが使われているとのことでした。例えば本書では桑田佳祐さんの事例が取り上げられていました。

川添:桑田さんは本当にうまく曖昧さを使ってますよね。歌詞には「胸さわぎの腰つき」「砂まじりの茅ヶ崎」「偽りのシャツにためらいのボタン」といった表現があります。「偽りのシャツ」って、どんなシャツだろうと思いますよね(笑)。どれもいろんな解釈があると思いますが、ここには「の」という言葉の自由さが関わっています。日本語ではさまざまな関係が「AのB」という形で表せてしまえるので、こういう形のフレーズは、聞いた人がそれぞれに自由なイメージを掻き立てられる。桑田さんは歌詞の中できわどいこともおっしゃるんですが、曖昧さを使うことでうまくぼやかしている面もあります。

 また、歌詞そのものじゃないんですけど、尾崎世界観さんの歌詞集のタイトルの「私語と(しごと)」には感銘を受けました。尾崎さんは、プライベートな「私語と」ともにミュージシャンとしての「仕事」をするんだな、と。これも、曖昧さが巧みに利用されている例だと思います。

ーー本書では特にどんなことを伝えたかったのでしょうか。

川添:言葉は本質的に曖昧なもので、そこからは逃れられないということを伝えたかったです。SNSを見ていても、曖昧さが原因で不毛な言い争いが起こることがあります。例えば「勉強しない大学生」という記事の見出しがあったとします。それを「大学生が全般的に勉強をしない」と取るのか、あるいは「一部の大学生が勉強をしない」と取るのか、そこで解釈が分かれるんですけど、いったん片方の解釈が頭に浮かぶと、もう一方の解釈が見えづらくなるんですね。そこでお互いに「お前の解釈はおかしい」とか「わざと曲解してるんだろう」と言い始めて、言い争いになってしまう。言語学者の目から見ていると、どちらの解釈もあるよ、と思うんですけどね。

 もちろん誰しも、自分の意図がうまく伝わらなかったり、相手が言ったことを悪く解釈してイラッとしたりすることがある。でもそんな時にこの本が、「もしかしたら別の意味で言っているのかもしれない」「私の言い方が曖昧だったかな」などと、一呼吸を置くきっかけになればと思っています。

■書籍情報
『世にもあいまいなことばの秘密』
著者:川添愛
価格:990円
発売日:2023年12月7日
出版社:筑摩書房

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