『レペゼン母』で注目の作家・宇野碧は“言葉の人”であるーー新作短編集『繭の中の街』を読んで

宇野碧『繭の中の街』レビュー

 本書の中では、港湾労働者の男と、パラレルワールドの住人の接触を描いた「プロフィール」も、言葉に対する強いこだわりが現れている。言葉は通じるが、生きる世界が違いすぎて、認識がかみ合わない二人の姿がもどかしい。しかし異種恋愛譚ともいうべき本作は、未来に希望を抱ける形(他の収録作と微妙に繋がっている可能性がある)で締めくくられている。きっと、言葉に対する信頼があるからだ。その信頼があるからこそ作者は、自己を表現する手段として、言葉だけによる小説を選んだのではなかろうか。

 あまり触れる余地がなくなったが、ちょっとミステリーのテイストがある「つめたいふともも」、言葉ではなく絵に重要な役割を託した「赤い恐竜と白いアトリエ」、すっとぼけたシートシート「秋の午後、神様と」も、それぞれ面白い作品だ。特に「赤い恐竜と白いアトリエ」は本書の中で唯一、作中の時代が確定している。そこに深い意味がある。

 そうそう舞台についても触れなければ。収録作はすべて神戸を舞台にしている。ところが、はっきりと神戸と書かれているのは「エデン102号室」だけだ。しかも“神戸”という言葉が出てくるのは後半であり、読めば意図的なものであることが分かる。このように本書は細部まで目を配り、繊細に物語世界を組み立ているのだ。今後の作者の飛翔を約束する、注目すべき一冊である。

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