『推し殺す』『ねずみの初恋』『この世は戦う価値がある』……漫画ライター・ちゃんめい厳選! 3月のおすすめ新刊漫画
『スキップとローファー(10)』高松美咲先生
作中のどこかに“自分”がいる。そんな共感度MAXなスクールコメディ『スキップとローファー』最新10巻。作者・高松美咲先生の故郷であり、物語の舞台となった石川県への支援として、能登半島地震応援版と通常盤の2パターンが同時刊行された。能登半島地震応援版は、淡いグリーンの表紙が目印となっており、夏を感じる美津未たちの爽やかなイラストや石川県珠洲市の風景を描いたオリジナルポストカード4枚が封入されている。夏休みに、旅行も兼ねてお馴染みのメンバーたちと一緒に地元へ帰省した美津未たち。自然豊かな故郷で大好きな友人たちと過ごす夏。海で遊んだり、バーベキューをしたり、寝る前に恋話をしたり......。なんだか遠い昔の夏休みを追体験しているような、あたたかい懐かしさで心が満たされていく。
志摩くん、ミカちゃん、結月にまこと、迎井。そんな、お馴染みのメンバーが登場する旅行には絶対的な安心感があるけれど、今巻では「友達だからこそ言えないこと」という今も昔も抱えがちな葛藤に切り込んだ巻であった。例えば、自分でもうまく言語化できたり腹落ちできずに鬱々としていること。それを友達にも知ってほしいと思う一方で、友達にその鬱々としたものを背負わることで苦しめるのではないかと......頭を悩ませる。
冒頭で本作を、作中のどこかにきっと“自分”がいると形容したが、自分と重なるキャラクターがいるだけではなく、人と関わるなかで生まれる感情を丁寧に掬い取ってくれるところが『スキップとローファー』の魅力だと思う。そんな本作を読んでいると「自分だけじゃなかったんだ」と、過去の自分が救われていくのと同時に、他者と関わることに臆病にならないで.......と優しく背中を押されるような感覚になる。
「友達だからこそ言えないこと」に対して、それぞれのキャラクターがどんな行動を取ったのかはぜひ10巻を読んでほしいが、個人的には既刊でも描かれてきたミカと、美津未の叔父・ナオちゃんとの関係性にとても胸を打たれた。誰にも言えずに自分1人で抱えているものを受け取って、昇華してくれるのは、何も友達や恋人、親じゃなくても良い。無意識に互いを救済しあえる意外な関係もあるのだと。人と関わることの新たな希望を教えてもらった気がする。
『へぼ侍』原作:坂上泉先生 / 漫画:みもり先生
もうすぐで新年度。環境や自身の変化を前に不安になっている方も多いことだろう。最後に選んだのは、そんな変化に立ち向かう勇気と希望を授けてくれる、歴史青春活劇『へぼ侍』。原作は坂上泉先生による同名タイトルの小説で、『地獄堂霊界通信』『しゃばど』などで知られるみもり先生によってコミカライズされた本作。物語の舞台は明治時代初期。明治維新によって武士が権力を握る時代が終焉を迎える。大阪で士族の跡取りとして生まれた志方錬一郎は、明治維新で家が没落した後に薬問屋へ奉公に出ているが、賊軍の汚名を着せられた父の無念を晴らすべく、いつか戦で武功を立てるという野望を抱いている。
武士の時代が終わった後も剣術の修行を続ける錬一郎のことを周囲は“へぼ侍”と馬鹿にするが、西南戦争をきっかけに彼にチャンスが巡ってくる。薩摩軍に対抗するために、明治政府が戊辰の動乱で戦った士族たちを壮兵として徴募することになったのだ。軍歴がなければ採用がされないため、錬一郎には縁のない話だったが奉公で培った商人の交渉力を活かして官軍に潜り込む。こうして憧れの世界に足を踏み込んだったが、自分が修行してきた剣術は使えず、さらに共に戦うのは自分以上に“へぼ侍”でクセだらけの男たちだった。
新年度による変化とは比べものにならないくらい、スケールの大きい“時代のうねり”に翻弄される錬一郎。それでもなお自分の志を曲げずに目標に向かって邁進し、たどり着いた先で理想と現実のギャップを突きつけられようが、決して歩みを止めない。譲れない自分の魂を軸に、これまで培ってきたスキルを総動員して立ち向かう錬一郎の姿にはきっと勇気をもらうはず。