EXILE NAOTO × スポーツドクター 二重作拓也 対談 パフォーマンスを医学的観点から考える

EXILE NAOTO×二重作拓也 対談

NAOTOのダンスのスピード感はどのように生まれる?

二重作:ツアーなどでコンディションの善し悪しはどうしても出てくると思いますが、NAOTOさんの場合、調子がよくない時はどのようにリカバーしているのでしょうか?

NAOTO:調子がよくない時の原因は、精神的・肉体的のどちらか、あるいはその両方の場合があると思うんですよ。そのどれかというのは、いつも何となくわかります。

 これがいいことなのかわかりませんが、身体が疲れてる時はもう精神で強引にこじ開けてみる。最初の2曲で思いきり発散しまくるんです。それで精神によって、身体が勝手についてくるような状態にする。逆に精神がついてこないときは体を動かしてみる。どちらかが疲れてるときは、片方からアプローチすることが多いですね。

二重作:このお話にも、パフォーマンスを考える上ですごく大きなヒントがありますね! 誰もがなんとなく「コンディションが良くない」と感じることはあると思います。そこでNAOTOさんの場合、自分の中で肉体的・精神的・両方という3つに区分けされている。すると、とらえどころのない感覚がとらえやすくなるんです。まるで図形に垂線を引くように。

 そして最初の2曲でとにかく動くというのは、脳機能から考えても大正解です。とにかく動いてみることで、「動けている身体の情報」が脳に入力される。するとどんどん動けるようになってきます。経験則でそれらに気づき、実践されているところもホント凄いです。

ーーNAOTOさんはライヴや収録などで緊張することはありますか?

NAOTO:最近はライブではあまり緊張しないかもしれません。昔、ダンスを始めたような頃は、緊張していましたが。今は慣れていることもあって、楽しみのほうが勝っているというか、いい緊張感がありますね。

 でも先日、FNS歌謡祭の生放送の時、いろんな人たちとダンスをするのが一発勝負で、ちょっと緊張していたかな。でもすごく気持ちのいい緊張感で、久しぶりにこういう感覚を味わえてよかったと思いました。むしろ、ダンスじゃない場面で緊張することがあるかもしれないですね。人前で話したりとか、自分の畑じゃないことにチャレンジする時です。

――パフォーマンス医学では視る範囲を変えて緊張を軽くする、というお話がありましたが、解説していただけますか?

二重作:目は外の視覚情報を入れる感覚器でもあるんですけど、目は動いていて、それを動かしてるのは筋肉です。だから「視るという運動」も、パフォーマンスの重要な構成要素になります。

 例えば、手のひらの真ん中をじっと視た後に、手全体を視ると「大きい」と感じます。一方、周りの景色を眺めてから、手をぱっと視たら「小さい」と感じるはずです。小さなエリアから大きく視るという「運動」をした時に、脳は大きさを判断するんです。ステージ上で緊張してブルブル震えている時は、「ひとりひとりの観客の顔が大きく視える」などの視野狭窄に陥っている。だからそういう時は「会場全体を視て、観客席を視る」という運動を行うと、視覚情報としても小さく感じるので、受けるプレッシャーが減っていくんです。

ーー二重作さんはNAOTOさんのパフォーマンスを見ていて、他に何か感じたことはありますか。

二重作:NAOTOさんのダンスのスピードがめちゃくちゃ速いと感じました。人ってこんなに速く動けるんだ、みたいな。少し専門的になりますが、スピード自体が速い時と、速く動いているように視える時の2つがあります。NAOTOさんは、その両方がどちらもあって惹き込まれましたね。

 例えば、ボクシングでは最初から速いパンチは案外避けやすいんです。初動で予測できるから。しかし、速く視えるパンチ、つまり「最初はゆっくりでスタートして途中で急加速するパンチ」はなかなか避けられない。世界王者クラスになると、ひとつの技の中で相手に予測させて裏切る技術があるんですね。

 NAOTOさんのダンスも優雅に動いている中で、突然速くなったりしていてハッとするんです。ソロのダンスでゆっくり足を上げる動きの次の瞬間、バッとスプリットをされていたり。スピードの落差によって、観ている側に「加速」というサプライズが伝わった、そんな気がしました。

NAOTO:それは無意識にやっていることかもしれません。自分自身がこれまでに緩急のあるダンスを見て感動してきたので、目や脳にたくさんストックされているんだと思います。それが自分が動く時の引き出しになっていますね。

二重作:なるほど、たくさんのストックがあるんですね。演奏される音楽がいわゆるポリリズムで、ドラムのBPMもあれば、もっと速いBPMの音も混在してる。そんな中でNAOTOさんの動きは「ゆっくり」「速く」を自由に往復されるから、1曲の中のいろんなリズムにシンクロする瞬間がありました。「カッコいいダンスを観た」というだけでなく、ダンスの中に「起承転結のストーリー」があるように感じたんです。

NAOTO:おっしゃっている意味はすごくわかります。自分のダンスで緩急をつけるようにしていますが、一つ一つを意識しているわけではありません。体の流れにできる限り委ねるところと、いきなり裏切るところがあるんです。そうした起承転結やストーリーのあるダンスに自分自身が影響を受けてきたので、無意識にそれをイメージしながらやっているんだと思います。

二重作:その一部を切り取ったときに、「ゆっくりの中で、ものすごい加速が視えた」という風に感じたかもしれませんね。今日は心で感じたことをNAOTOさんに直接お伝えできて貴重な機会になりました。そして新たな気づきもありました。ありがとうございました。

■書籍情報
『可能性にアクセスするパフォーマンス医学』
著者:二重作拓也
価格:¥1,485
発売日:2023年10月25日
出版社:星海社

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