【漫画】性格が正反対の女子2人が生け花をすると……“生きる”と”生ける”が重なる読切漫画が美しい
キャラからストーリーを考える
――『性格が正反対の女子2人が生け花をする話』を制作した経緯を教えてください。
百八様:本作は1年前に制作したのですが、以前から「華道をテーマにした話を描きたい」と考えていました。ありがたいことに出版社に持ち込んだところ、『月刊ビッグガンガン』(スクウェア・エニックス)で読み切り漫画として掲載してもらいました。
――なぜ華道をテーマにした作品を描きたかったのですか?
百八:生け花は長くても10日ほどの寿命です。とても儚い芸術ですが、だからこそ枯れるまでを含めて慈しみがあるとも言えます。そして、いずれ死んでしまうにもかかわらず懸命に生きる人間と、つまり命と通じる部分を感じました。私はキャラクターから物語を作るのですが、「生け花をするキャラとはどんな人物なのか」と考えた時、生け花の精神と人生の生き方がリンクしている、か弱くも今しかない女子高生ライフを全力で謳歌しているという設定のサヤを生み出しました。
――そういう思いからサヤは誕生したのですね。
百八:その後、対照的な性格のキャラをぶつけるため夏鈴を考えました。2人の対話と和解を丁寧に表現したかったので、放課後の補習の時間という設定にして2人以外のキャラは一切出さないようにしました。
――夏鈴とサヤの性格はそういった経緯で生まれたのですね。ビジュアルはどのように決めましたか?
百八:夏鈴は外見的な自分磨きに興味がなく、制服のスカートも折らず髪もボサボサ。一方、サヤはニットを伸ばしたりスカートを短くしたり、また髪はキッチリ結ばず抜け感があったりなど細かい点まで意識しました。
――そもそも、百八さんは生け花の経験があるのですか?
百八:高校生の時に華道部で活動していました。ただ、卒業後は触れる機会がなく、本作を制作するにあたり、当時のメモや教本を読み返し、新たに書籍を読んで勉強をしました。
生け花を描き分ける難しさ
――作中には夏鈴の1回目、2回目、サヤの1回目と生け花が3回描かれていました。いずれも意味合いが異なる生け花を描く必要があり苦労したのでは?
百八:とても苦労しました。主に教本を参考にして描いています。サヤの1回目ですが、平たい器を用いた「盛花」という技法を使い、花材はこでまりとアネモネにしました。サヤに合った可愛らしい印象になるように意識しています。
――夏鈴の1回目、2回目は?
百八:夏鈴の1回目は不合格の作品なので、オリジナルで雑然とした配置で描きました。2回目は、1回目でひっくり返した花材(薔薇となんてん)をそのまま使い、今度は美しくそして強く見えるようにしっかり資料を見て描きました。
――ちなみに本作は「その日」に起きた出来事が描かれています。日を跨いでも成立した気がするのですが、「その日」で収めた理由は?
百八:本作のスピード感は、担当編集さんからも指摘された“メタ的な問題点”です。夏鈴にとって「なんだかんだ毎日のように一緒にいたサヤが倒れる」という事件は、衝撃が大きく、それでいて生け花に向き合う十分なキッカケになります。ただ、夏鈴はウジウジしないタイプですので、いてもたってもいられなくなり、花が枯れる前にすぐに行動に移す、という形にしました。
――「おしゃれ=コスパが悪い」と考えたり、機能性を重視したりなど、外見にこだわらない人は少なくありません。サヤのセリフを通して、“着飾る”ことのネガティブでない意味をあらためて感じました。
百八:私自身も夏鈴寄りの思考なので、「おしゃれすることにどう言われたら納得できるのか」と無意識に考えていたのかもしれません。別に可愛くなくても生物としては生きていけます。「おしゃれをしたい」という感情は、人が芸術活動をすることに似ていると思い、生け花の作法に例えたセリフにしました。一般的に生け花は引き算の芸術と言われており、思い切って余計な枝葉は削ぎ落として花の輪郭を際立たせないと映えません。その手法を簡潔に説明しているスカートのくだりは、我ながら上手く例えられたと思っています。
――今後の漫画制作における目標など教えてください。
百八:ありがたいことに『マンガUP!』(スクウェア・エニックス)でコミカライズを連載できる機会をいただき、現在はその準備中です。来年中に連載開始できる予定なので、始まったらぜひ読んでもらえればと思っています。小説の原作をもとに連載ネームを切ることは、想像する以上に労力が必要な仕事ですので日々学ぶことが多いです。この経験を活かして、いつかオリジナルの連載を持つことが夢なので、これからも全力で精進していきます!