『呪術廻戦』釘崎野薔薇、なぜ“悔い”がない……芥見下々が描く女性キャラの特徴とは
命をかける覚悟を決めた女性キャラたち
釘崎の意志の強さを感じさせるエピソードとしては、単行本第7・8巻のバトルが挙げられる。そこで彼女は虎杖と共に、人間の身体に受肉した「呪胎九相図」の壊相・血塗と対峙した。
明らかに呪霊とは異なる存在だったため、虎杖は彼らを手にかける際、「ごめん」と口走り、戦闘後も表情を曇らせていた。それに対して釘崎は内心はともかく、「私はぶっちゃけなんともない」と気丈に言い放っている。釘崎の方が呪術師としての覚悟が決まっていることを示すシーンだが、それは“人間としての覚悟”とも無関係ではない。彼女は自分の命も含めて、「私が私である」というエゴイズムを通すためにあらゆるものを犠牲にすることを覚悟していた。
とくに呪術師の世界では、自分の価値観を守り抜くことは容易ではない。力なき者は奪われ、蹂躙されるだけで終わってしまうからだ。釘崎だけでなく、『呪術廻戦』に登場する女性キャラクターたちはいずれも命をかける覚悟をもって、エゴイズムを通そうとしている。
たとえばその筆頭と言えるのが、禪院真希・真依の姉妹だろう。禪院家は呪術界の名門にして、血統主義と男尊女卑に強く縛られた家柄。“凶兆”とされる双子として生まれた真希と真依は、幼い頃から差別的な扱いを受けており、人間らしく生きるためには呪術師としての腕を磨くことが不可欠だった。
そして真依と同じ呪術高専京都校に所属する西宮桃も、“女性呪術師”という困難な生き方と深く向き合っているキャラクターだ。釘崎とは価値観が対立することとなったが、どちらも自分の居場所を作るために奮闘していることには変わりない。
少年マンガでは、主人公に守られるヒロインとしての女性キャラクターが登場しがちだとよく言われるが、『呪術廻戦』の世界はまったく真逆。むしろ守られることを拒絶し、自分の力で強くなって世界と対峙するという意志に満ちあふれている。釘崎は、そうした気高いキャラクター像を象徴する存在と言えるかもしれない。
作中で夜蛾正道は「呪術師に悔いのない死などない」と語っていたが、『呪術廻戦』の女性キャラクターたちはそうした枠組みすら破壊する生き様を見せてくれる。芥見下々の描く世界はきわめて残酷で、理不尽な悲劇ばかり巻き起こるが、だからこそ人の意志の気高さが際立つのではないだろうか。
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©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会