手塚治虫『ブラック・ジャック ミッシング・ピーシズ』重版決定 高額&マニアックな内容なのになぜ人気?
手塚治虫による医療漫画の金字塔『ブラック・ジャック』の貴重な史料などを収録した、『ブラック・ジャック ミッシング・ピーシズ』の発売前重版が決定したと、出版元の立東舎が発表した。本書は、発売前から多くの話題を呼んでおり、新聞各紙で「『ブラック・ジャック』“最後のお蔵出し”11月公開へ モノクロ線画や未使用こまなど」と報じられるなど、注目が集まっていた。
また、今年2023年は、『ブラック・ジャック』の連載が開始して50年という節目であり、六本木で行われた「ブラック・ジャック展」は大好評であり、若者の間にもファン層が拡大した。こうした影響もあったのか、同書はリアル書店やオンライン書店で予約が殺到。することになり、11月20日の発売を前に2刷目が決定したという。
立東舎は、「『週刊少年チャンピオン』での連載開始から50年の節目の今年、ブラック・ジャックの知られざる姿と、それを生み出した手塚治虫のクリエイティビティの軌跡をぜひご堪能ください」とアナウンスした。なお、本書に先駆けて6月に発売した『ミッドナイト ロストエピソード』も好評で、やはり今までは読めなかった原稿が収録され、ファンの間で話題になった。「併読をおすすめしたい一冊」と、立東舎はコメントしている。
それにしても、なぜ、『ブラック・ジャック』のこうしたマニアックな書籍が話題になるのだろうか。それは、手塚治虫の漫画制作特有の事情による部分が大きい。手塚は雑誌に載った漫画が単行本化される際、そのまま収録することはほとんどなく、何度も何度も描き直すことで有名だった。『ブラック・ジャック』も同様であり、コマの差し替えはごく普通にあるし、セリフが変更されていたり、ストーリーの展開までもが変わっているケースもある。
また、『ブラック・ジャック』は医療という題材を扱うため、大人の事情でお蔵入りになってしまったり、修正が行われたエピソードが多い。そのため、既存の単行本を全部揃えて読破しても、すべての作品を読んだとは言い切れない部分があるのだ。手塚治虫の代表作でありながら、完全読破は難しく、いくつもの未収録の部分がある。これが、『ブラック・ジャック』にマニアックなファンがいる要因のひとつといえる。
それにしても、『ブラック・ジャック ミッシング・ピーシズ』は4,950円もする、かなり高価な本である。こうした本に重版がかかるという事実を見て、記者は出版界の明るい未来を感じずにはいられない。質が高く、唯一無二で、ファンの好奇心を満たす本づくりを行えば、紙の本はまだまだ伸びしろがあるということだ。むしろ、こうしたマニアックな本ほど紙で見る醍醐味があるのではないだろうか。これを機に、知られざる『ブラック・ジャック』の世界に浸ってみて欲しい。