室町・江戸時代のベストセラーをレジェンドが漫画化 ねずみ男が案内する『水木しげるの不思議草子』の魅力

ねずみ男が案内する『水木しげるの不思議草子』

 『ゲゲゲの鬼太郎』の作者として知られる妖怪漫画の第一人者・水木しげる。代表作『ゲゲゲの鬼太郎』は、1968年放送開始の第一期から時代を超えて6回もアニメ化され、昨年2022年の生誕100周年では様々な記念イベントが開催されるなど、今もなお、彼が描きだした妖怪たちの人気は衰えを見せない。

 本稿では、妖怪研究家としても有名だった水木が、室町・江戸時代のベストセラー『御伽草子』をアレンジし、漫画化した『水木しげるの不思議草子』を紹介したい。

お金が大好きで時には味方、たまに敵 憎めないキャラクターねずみ男

 『御伽草子』とは、作者不詳の短編物語の総称で、『水木しげるの不思議草子』の中にも「ものくさ太郎」「鉢かづき」など、有名な民話が収録されている。中でも特筆すべきなのは、原作に登場しないねずみ男が登場している点だ。

 ねずみ男といえば、水木漫画を象徴的するキャラクター。人間と妖怪のハーフで、お金と権力が大好き。鬼太郎たちに味方したと思いきや、金儲けのために突然裏切って敵にもなる、長いものに巻かれろ主義のキャラクターで知られている。

 なかなか曲者の割に、人間臭くて憎めないところが魅力。その小狡さや人間味に、かえって読者が共感し、思わず自分の行動と重ね合わせてギクリとしてしまう、ダークヒーロー要素も持ち合わせている。ある意味で、水木漫画の影の主役と言ってもいい。

ねずみ男と猫のクロチビが御伽草子の世界を案内

 室町・江戸時代の民話にどうやってねずみ男が絡むのか、というと物語冒頭で登場する水木家の猫クロチビとともに、ストーリーテラーとして登場するのである。

 ある日調布の水木しげる邸を訪れたねずみ男は、水木家でクロチビがとても可愛いがられているのを見て憤慨、「いつも猫ばかり可愛がられている」と不満不満を漏らす。その様子を見たクロチビは、猫が可愛がられるようになった理由を教えるべく、まさに御伽草子の時代にねずみ男を連れて行ってしまうのだ。

 原作が室町・江戸時代の『御伽草子』をアレンジした内容なので、水木しげる作品お馴染みのおどろおどろしい妖怪キャラクターの登場や、人間の愚かさを示唆するストーリー展開はなく、歴史やファンタジー感を感じさせるストーリーが展開される。

 随所にねずみ男は登場し、各エピソードのキャラたちをいじってツッコミを入れるだけで、まるでタイムトラベル漫画を読んでいる気分になる。ねずみ男たちがいわば馴染みの薄い古い昔話と、現代人の私たちを結ぶ潤滑油のようになっている。

 『ゲゲゲの鬼太郎』の人気キャラクターねずみ男が登場しつつ、コアな漫画ファン、サブカルファンからも評価の高い本作。秋の夜長に、鬼太郎とは一線を画す世にも奇妙な昔話に浸ってみては?

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