『劇場版シティーハンター 天使の涙』映像化の難点とは? 原作「海原編」との比較
『劇場版シティーハンター 天使の涙』が公開中だ。『シティーハンター』の熱狂的ファンを公言する筆者は、試写を含めて2回鑑賞し、さらにもう1回分のムビチケを持っている。そんな筆者が本作の率直な感想を書くなら「『新宿プライベート・アイズ』ほどのインパクトはないがオープニングとエンディングは抜群に良かったし何より冴羽獠が相変わらず格好良かった」だ。
絶賛しないのは、本作が原作の「海原編」を映像化しているために、原作との違いが気になって厳しい目で見てしまっているからだろう。では具体的にどこが気になったのだろうか?
この記事では、原作における「海原編」がいったいどんな役割を担っているのか、またなぜ映像化が難しいのかについて語る。映画の内容にも深く触れるので、ネタバレを避けたい方は、鑑賞後に読んでいただけると幸いだ。
ハードボイルド時代のなごりと壮大な伏線
海原編とは、冴羽獠の育ての親である海原神が中心となる漫画終盤の一連のエピソードを指す。だが海原神は、連載開始直後の、日本に麻薬密売の独自ルート開拓を目論んだ「ユニオン・テオーペ」の長老(メイヨール)としてすでに登場している。
ユニオン・テオーペは野望のために、「エンジェル・ダスト」と呼ばれる、人間の身体能力を極限まで高め、死の恐怖から解放する悪魔の薬を利用する。冴羽獠と、当時のパートナーである槇村秀幸は、ユニオン・テオーペの障害とみなされ、エンジェル・ダストを投与した刺客を送り込まれた。その際に槇村は命を落としている。
当時、原作者である北条司先生は編集者の意向に沿ってハードボイルドを描いていたが、もともと乗り気ではなかったそうだ。加えて読者からの評価も低かったことから、すぐに大幅なテコ入れが必要となり、ハード要素の核とも言えるユニオン・テオーペを物語からフェードアウトさせた。新宿の街にも、冴羽獠と新パートナーの槇村香の生活にも平穏が訪れ、物語はふたりのドタバタ日常を軸とした明るいスイーパーものにシフトしていった。
連載が長引いて冴羽獠とユニオンの関係が明らかに
だが、ユニオン・テオーペは原作から完全に消えたわけではなく、連載が長引く中で、冴羽獠の超人的な身体能力や圧倒的な銃スキルのルーツを語るときや、海坊主との確執を語るときなどに言及されるようになった。
物語の終盤に差し掛かると、ユニオン・テオーペが改めて日本侵攻を開始し、冴羽獠たちの前に姿をあらわす。さらに、冴羽獠はゲリラ兵だった頃に海原神によってエンジェル・ダストを投与された経験があると明かされる。それだけでなく、海坊主が視力を失ったのは、エンジェル・ダストを投与された獠と戦ったことが原因だと判明するのだ。つまり、海原神やエンジェル・ダストは、キャラクターアークを豊かにするだけでなく、物語に重厚感を持たせる役割であり、ハードボイルド時代を伏線とする壮大な仕掛けになっていたと言える。