「まるで二俣川駅のよう」ふかわりょう、南川朱生(ピアノニマス)対談 大人になってやっと気づいた「鍵盤ハーモニカ」の魅力

ふかわりょう、南川朱生(ピアノニマス)対談

進化する必要がなかった鍵盤ハーモニカ 未熟さゆえの愛おしさ

ーーふかわさんは今でも鍵盤ハーモニカを吹かれるんですか?

鍵盤ハーモニカに触れるふかわ氏。久しぶりに聴いた音色は、今聴くとより愛着が湧くと話す

ふかわ:最近は全然吹いてなくて、今日実に10年以上ぶりです。でもやっぱりこの哀愁の音色はいいですね。

南川:ふかわさんがお持ちのものは、今は廃番になっているドイツ製の「メロディカ」ですね。

見ているだけで可愛らしいフォルムの鍵盤ハーモニカ。手頃な値段で手に入るものが多いし、手軽に吹けるのも魅力だ

ーー南川さんは、今日たくさん持ってきてくださいました。

南川:鍵盤ハーモニカは、メーカーや年代、機種によってどれも音が違うんですよ。

ふかわ:オクターブもそれぞれ違うんですか。

鍵盤ハーモニカを吹く、南川氏。初めて聴く音色にふかわ氏も驚きを見せていた

南川:さまざまです。例えばこれはバス。さっき仰っていた鼓笛隊を想定して作られたとみられています(と、音を出す)。

ふかわ:いい音でるなー。厚みや素材もいろいろあるんですね。

南川:国産の鍵盤ハーモニカでも初期型は結構音色重視なんです。ただ量産が決まり毎年小学1年生が入学するたびに売れていくようになると、楽器として発展させる必要がなくなったんですよね。

鍵盤ハーモニカは二俣川駅に似ている

ふかわ:「頑張る必要がない」というのは、僕、結構好きなんですよ(笑)。話が逸れますが、二俣川駅に行ったことあります? あそこって運転免許試験場があるから、沿道に並ぶ店はそんなに本気を出さなくても客足は確保されているんです。

ーーそうなんですか(笑)

ふかわ:免許の更新は面倒なので気が重いのですが、いつからかたまに行きたくなる自分がいたんです。何を求めているのだろうと考えてみると、街のぬるま湯感というかその独特の雰囲気が肌に合うことに気づいたんです。鍵盤ハーモニカは、まさにそんな雰囲気に似たものを感じます。放棄はしてないし、投げやりでもない。でもそこまで必死ではない感じとか(笑)。

南川:初めてそのような感想をお聞きしました。とても面白いです(笑)。小学校で使われている水色やピンクのいわゆる普及型の鍵盤ハーモニカは、長い間大幅には形状が変わっていませんからね。

未熟な楽器だからこそ、鍵盤ハーモニカには魅力が尽きないと話す南川氏

ふかわ:そう、まさに僕が小学生の時に使っていたものと変わらない。

南川:私は、鍵盤ハーモニカの魅力のひとつは未熟さにあると思っているんです。未熟さというのは、ひとつに需要が満たされていたことで、ずっと形が変わらなかったという楽器の構造的な部分。それとシーンも未成熟なので、勉強したいと思ったときにちゃんとした本がなかったり、自虐ではありますが奏者も未熟だったりする。音楽業界の中でも総合的に未熟なのですが、私はむしろそこに可愛さを感じているんです。完璧じゃないからこその可愛さというか。

鍵盤ハーモニカ型のクッション。部屋のインテリアとしても可愛さをプラスしてくれるグッズ

ふかわ:可愛さは重要なポイントだと思います。繰り返しになりますが1人1台の儀式がなかったら、もっと感動的な出合いをしていると思うんですよ鍵盤ハーモニカとは。そういう意味では悲しい運命を背負った楽器ですが、その絶妙な感じが良い部分でもあるのでしょうね。

世界中の有名ミュージシャンが愛用する理由

ふかわ:鍵盤ハーモニカって、アコーディオンやハーモニカの音色と聴き比べてみると、印象としてはかなり近いような気がします。空気の抜けている感じとか。

南川 私は長く聴いてきたので判別つくようになりましたが、なかなかわかりづらいですよね。音を聴くだけだと聴き分けが難しいかもしれません。

ーー鍵盤ハーモニカというくらいですものね。

南川:鍵盤ハーモニカの中には、フリーリードと呼ばれる、アコーディオンやハーモニカと同様にT字型の板片が金属板の上に並べられています。この板片の片側が空気の力で振動することで音が出る仕組みなんです。

ふかわ:音が近いのも納得ですね。「なぜ人は楽器を演奏したがるのか」と考えたとき、やっぱり「言葉にできない感情を、楽器を介して表現したい」という気持ちもあると思うんです。そんな人の悲しさ、切なさを届けるのに鍵盤ハーモニカはすごく相性が良いのではないでしょうか。

南川:その感覚、すごくわかります。

ふかわ:ピアノやギターだと音が減衰している感じがあるのですが、鍵盤ハーモニカは余韻はなくて、パッと音が切れる。そこがまた特徴のひとつだと思います。余韻のない音色が、哀愁すぎず、キュートさがブレンドされている気がします。

南川:フリーリードの音色って、バイオリンのように抑揚が付き過ぎるわけでもなく、電子楽器ほどピコピコしてない。そのちょうどよい中間さがキュートさにつながっているのかもしれません。

ーー南川さんは鍵盤ハーモニカを両手で弾くことが多いですよね。

南川 両手で弾くと、アコーディオンではできないポジションが可能になるので、幅広い演奏ができるようになるんです。

ふかわ:一般的には片手で弾いているイメージは強いですが、両手弾きをする人が増えるといいですね。呼吸は大変そうですけど。

南川:はい、自分を鍛えることに尽きます(笑)。

与えられたがゆえに鍵盤ハーモニカの魅力に気づいていないことが多いと話すふかわ氏

ふかわ:残念ながら、まだまだ鍵盤ハーモニカって楽器の中でも舐められがちだと思うんです。たとえばバイオリンやクラリネットだと、音が出るまでが大変じゃないですか。でも鍵盤ハーモニカはすぐに音が出る。それに学校から与えられてしまった軽い感じがある。そこが鍵盤ハーモニカの悲しい運命だと思うんですけど、だから奥深さにもっと気付けるといいんですけどね。

南川:世界のジャズやロックの巨匠たちも鍵盤ハーモニカを取り入れているんです。

ふかわ:楽器として魅力を感じて世界中のミュージシャンが使っていると。

南川:そうなんです。

ふかわ:でも日本の場合、狙っている感が少し出ちゃうかも。

南川:しかも、「鍵盤ハーモニカなのに、すごいよ」みたいな枕詞がついちゃうんです。

ふかわ:そこがね(笑)。

南川:枕詞がなくても、本当は十分すごいんです。

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