「まるで二俣川駅のよう」ふかわりょう、南川朱生(ピアノニマス)対談 大人になってやっと気づいた「鍵盤ハーモニカ」の魅力

ふかわりょう、南川朱生(ピアノニマス)対談

 鍵盤ハーモニカという楽器を覚えているだろうか。

 パイプを吹きながら鍵盤を叩いて音を出すあの楽器だ。小学校の頃に音楽の授業で使用した人も多いのではないだろうか。もしかしたら“ピアニカ”という商品名のほうが馴染み深いかもしれない。

 そんな楽器に惚れこんでプロ奏者となり、研究家としても活躍しているのが南川朱生氏だ。彼女が書き下ろした『鍵盤ハーモニカの本』(春秋社)では、過去の膨大な資料に基づき歴史を掘り下げ、また偏愛たっぷりに魅力が綴られている唯一無二の内容となっている。

ふかわりょう氏、南川朱生(ピアノニマス)氏との対談は、鍵盤ハーモニカの新たなる一面を気づかせてくれるものとなった

  今回は、南川氏とふかわりょう氏によるスペシャル対談企画が実現。ふかわ氏は、鍵盤ハーモニカを使って一言ネタを披露した時期もあった。現在では楽器としての魅力に心を惹かれているという。お二人に鍵盤ハーモニカの魅力を存分に語り合っていただいた。

なぜ小学校では、鍵盤ハーモニカを“持たされた”?

ーーふかわさんは鍵盤ハーモニカに初めて触れたのはいつごろだったのですか?

ふかわ:原体験は小学生の頃です。音楽の教育のなかに組み込まれていた世代だったので、欲しい・欲しくないに関わらず配布されたものでしたね。

南川:学販品として、さんすうセットなどと共に購入させられるんですよね。今でも日本の多くの小学校で鍵盤ハーモニカが配布されています。

ーー鍵盤ハーモニカは小学校低学年から持たされることが多いのですね。

南川:基本的には1-2年生で鍵盤ハーモニカ、3-4年生以降はリコーダー、5-6年生で合奏をやるという流れです。

ふかわ:思い出すのは小学校の鼓笛隊です。4年生から入ることができて、最初は鍵盤ハーモニカから参加するんです。僕の通っていた学校では花形の指揮は女子生徒と決まっていたので、男子は太鼓やシンバルが昇格コース。それ以外が鍵盤ハーモニカ。その時は正直、早く昇格したかったですね(笑)。

鍵盤ハーモニカにはさまざまな種類がある。小学校で吹いたものとは音も形状も全く違うのも魅力の一つだ

南川:鍵盤ハーモニカは、その他大勢の楽器という印象が強いですよね(笑)。

ーーなぜ、鍵盤ハーモニカは学校で導入されたのですか。

南川:詳しくは『鍵盤ハーモニカの本』で書いているのですが、鍵盤ハーモニカが教育現場に導入されたのは、教育業界、政府、楽器メーカーなど、いろいろな思惑が複雑に絡み合って「教育で役に立つかもしれない」となって普及していってたんです。

ふかわ:各所の思惑をすべて体現した楽器が鍵盤ハーモニカだったんでしょうね。ただ、教育現場で普及したがゆえに、楽器本来の魅力に気付くのにちょっと時間がかかってしまったところはあると思います。

南川:はい、みんなが知っている当たり前の楽器となったことは良いことなのですが。

ーー南川さんは、小学生の頃に鍵盤ハーモニカを配布された経験はありますか。

南川:いや、小学校の頃はドイツにいまして。鍵盤ハーモニカは配布されませんでした。原体験は、高校生になって学園祭でバンドをやるときです。キース・エマーソン(※イギリス出身のキーボーディスト。さまざまなジャンルで活躍した)のようにキーボードを2台弾きたかったのですが、2つ用意できないのでひとつは鍵盤ハーモニカを使ったのが最初です。

“持たされた”か“否か”で大きく変わる鍵盤ハーモニカへの思い

ふかわ:では小学校で鍵盤ハーモニカを持たされた経験はない?

南川:はい、そうなんです。

ふかわ:ここですよ、ここ。南川さんは小学校で鍵盤ハーモニカを持たされなかったから、音色の魅力に自然と向き合えたのではないですか。僕は与えられちゃったから鍵盤ハーモニカを。その違いはホントに大きい。強制的に持たされて魅力になかなか気づがないことは他にもいっぱいあると思いますが、鍵盤ハーモニカは最たる例かもしれません。

ーー確かに興味関心を持つ前に与えられた楽器というのは、なかなかその魅力に気づかないことがありますね

鍵盤ハーモニカの魅力は大人になるにつれて気づいていったというふかわ氏

南川:ふかわさんは、慶應義塾大学ラテンアメリカ研究会に所属されていたそうですね。鍵盤ハーモニカはその時に初めて購入されたと聞きました。

ふかわ:ラテンアメリカの研究会で、ボサノヴァユニットを組むことになったんです。最初はフルートをやってみたんですけど、肺活量を使うものだから、頭がいたくて仕方なくて。その代わりはなんだろうと探していたとき、小学校のときにやった鍵盤ハーモニカの音色を思い出したのです。ただ、持っていた鍵盤ハーモニカは、水色のボディに“ふかわ”とひらがなで書かれたもので(笑)。それはそれで面白いかと思ったのですが、その時にホーナー社製の鍵盤ハーモニカに出会って購入したんです。

ふかわりょう氏が大学時代に購入したHOHNER社の鍵盤ハーモニカ

ーー今日お持ちくださった鍵盤ハーモニカですね。

ふかわ:はい、使ってみたら本当に音色が良かった! 哀愁というのかな。小学生の時の鍵盤ハーモニカとは音色が全然違う。これでボサノヴァのメロディを吹くと、クラシックギターとの相性もとても良かったんです。

南川:そうだったんですね。テレビでネタを披露されているときにお見かけしたのは、ホーナー社の鍵盤ハーモニカじゃなかったので意外でした。

ふかわ:「小心者克服講座」など大学の頃からネタをやっていたのですが、小道具として使ってたのは、ボサノヴァユニットの後で。テレビで使ってた鍵盤ハーモニカは、用意してくれたものを使っていたこともありました。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「著者」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる