【山岸凉子を読むVol.2】親とは、子とは、家族とは何なのか……後味が悪すぎる“毒親漫画”3選

【山岸凉子を読む】後味が悪すぎる“毒親漫画”

 山岸凉子作品で3選シリーズをと編集さんに声をかけていただいたとき、「毒親」と「悪女」のふたつが思い浮かんだ。まずは、このふたつなら困らない。山岸作品には毒親も悪女もたくさんいる。ところがいざ書き始めようとして山岸作品を振り返ると、私はあわててしまった。多すぎる。山岸作品には毒親が多すぎる。どの人を選んでいいのかわからないほどに。

 教育によって子供の人生を狂わせる『天人唐草』『汐の声』、子どもに等しく愛情を注がない『日出処の天子』『ヘレネ―』『鬼子母神』、無意識のうちに子どもに心ない言葉をかけて自信を喪失させる『木花佐久夜毘売』……その他、虐待もの、不倫ものを数えるときりがない。

 数ある毒親漫画の中でも私が特に後味が悪いと感じた山岸凉子の描く毒親を3人ピックアップした。非常に難しいので、どの漫画を選ぶかは記事を書く人によって変わってくるだろう。「こちらの漫画のほうが……」と思われる方もいると思うが、ご容赦願いたい。前述した『天人唐草』と『日出処の天子』は親たちが無自覚なのでよけいに恐ろしいが、山岸作品の代表作であり、記事化もしたことがあるので除外する。

 前に紹介したトラウマものの怪奇ホラー漫画と比較すると、これはサイコホラーに近い。この記事の読者の方々は、これらの漫画を読んでどのような感想を持っただろうか。まだ読んだことのない方は、この記事をきっかけにぜひ読んでほしい。「毒親」を語るうえで欠かせない漫画ばかりだから。

『メディア』

 山岸凉子ファンなら、毒親と聞いて真っ先に思い浮かぶ作品だろう。作者が「毒親」という存在がどのようなものか正面から向き合い、深く切り込んでいった作品でもある。それまでに手掛けた毒親漫画の集大成とも受け取れる、テーマがピンポイントであるだけに訴求力もある。

 主人公は短大生の有村ひとみ、ボーイッシュな女性である。父親は不倫をしていて別居中のようだ。同居する母親は少女のような服装でひとみの側にいつもいたがる。毎日お弁当を作り、ひとみの就職先まで決めてきて、就職が決まったのでふたりで旅行をと張り切る母を見て、ひとみは依存されていることを痛感し、自立しようと決意。行動に移すが……。

 発表は1997年、まだ毒親という言葉が日本に浸透していなかった時期である。親子両方が自立できないまま息子が大人になってしまう『鬼子母神』も毒親漫画だが、それとは異なり、『メディア』で子どもであるひとみは自立したがっている。しかしひとみの母親が娘から離れようとしないのだ。

 山岸凉子の漫画には父親が蚊帳の外にいる、もしくは不在にしているという漫画が多い。『メディア』もそのひとつで、父親が蚊帳の外にいて不倫をしていることによって、母親は異常なまでに娘に依存して離れられない。責任は母親だけにあるのだろうか。ひとみの父親によって、彼女は「ひとみだけは味方」「ひとみを守らなければ」と思い詰めて、いわゆる毒親になってしまったというとらえ方もできる。

 衝撃のラストまで読んで、親の立場、子どもの立場両方から考えてほしい。毒親とは何なのか。そもそも家族とは何なのかを。

『狐女』

 『メディア』とはうって変わって、『狐女』は親から捨て子のように見捨てられた小学3年生の少年・理を主人公にした漫画だ。

 父親の妾の子である理は、まだ小学3年生だが父の顔も母の顔も知らない。理を育てる酒浸りの祖父と病弱な祖母も理に愛情を注ぐことはせず、むしろ疎ましい存在として見ている。ふたりの死後、今やこの世にいない父の家に引き取られたものの、理はすべてがわかったような表情をして周囲に怪しまれるような言動を発する。だが山岸凉子の凄みは、この理という少年が、自分が傷つかないためにわざと大人びたふるまいを見せ、すべてがわかったような顔をしていることをすぐに読者に悟らせることだ。

 彼は誰にも甘えられず、誰も味方だと思っていない。そして祖父母を見て育ったので、彼を本当に愛する人は誰もいないと知っている。子どもらしい寂しさを抱えて当然の環境で、なんでもわかったようなふりをして必死で武装をしているのだ。しかし10歳にもならない彼の強がりは、実はとてももろく、すぐに破綻する。

 父親が死んでいるので、もちろん父親が不在の漫画なのだが、母親はどうか。彼女が誰なのかわかって言葉を交わしたとき、彼の孤独は決定的になる。

 理の外見は小学3年生と思えないほど美しく描かれている。それは『日出処の天子』の厩戸王子、『わたしの人形は良い人形』の竹内陽と通じる部分があるが、その全員が闇を背負っているのが皮肉だ。特に理と厩戸王子は母親から望むような愛を受けることができないという点でも共通していて、理と序盤の厩戸王子は年齢も近く『狐女』が『日出処の天子』連載開始の翌年、1981年に発表されているのも興味深い。

 『メディア』の娘に依存する親、そして『狐女』の理の母親。ぜひ見比べてほしい。

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