【山岸凉子を読むVol.1】夜に読むのは厳禁、残暑でも凍りつくトラウマ級の怪奇ホラー漫画3選

【山岸凉子を読む】トラウマ級の怪奇ホラー

わたしの人形は良い人形

 初めて読んだとき、部屋に置いておくのも怖くなって棚の奥にしまいこんだ漫画がある。それが『わたしの人形は良い人形』だ。

 昔、ある少女が死んだときにいっしょに焼かれるはずだった市松人形が、焼かれなかった。そこから悲劇は始まる。少女の怨念が人形に宿り、市松人形の本来の持ち主である友だちまで事故死したのだ。

 時は経ち、最初に死んだ少女の妹である姿子が、家で市松人形を見つけたことから再び悲劇は始まる。きれいな市松人形だと感じた姿子は家に人形を置いておくが、人形の怨念によって留守中に家が火事で全焼、両親が死んだ。姿子はショックを受けるが、両親の死が人形のせいだと知らずにその土地を離れる。

 そして現代(本作が発表された昭和60年)。

 大人になった姿子は、両親と住んでいた家があった土地に、新しく家を建てて、夫と娘の陽子と共に住むことになった。引っ越しの準備中、なぜか全焼したときにいっしょに燃えたはずの人形が箱に入って置かれていた。現実主義の姿子は、不思議に思わないどころか感激して、今度は娘の陽子が人形をもらう。

 この陽子が本作の主人公であり、物語もここから急激に恐怖の度合いを増していく。すぐに異変が起きて、やがて陽子の命まで危うい事態になるのだ。

 いっしょに焼かれるはずだった人形には、少女の怨念が宿っていたのだ。

 何も悪いことをしていないヒロインに災難が降りかかるという点では『化野の…』や『汐の声』と同様だが、本作には霊能力を持つ竹内陽という非常にルックスの良い青年が登場する。人形の呪いを消そうとする彼はまるで陽子を守るヒーローのように見えて、彼がなんとかしてくれるのではないかと読者の期待も高まる。ほかの2作とはテイストの異なるラストまで、ぜひ読み進めてほしい。

幅広い山岸凉子のホラー作品

 序盤で述べたように山岸凉子のホラー漫画はこれだけではない。人間の持つ怖さを表現したものもあれば、時代設定や場所(外国など)を変えたもの、今後、私が紹介する毒親ものや実際の事件を扱ったものなど、山岸凉子の見識の広さと想像力は漫画家としての非常に高い能力を感じさせる。

 山岸凉子作品の電子コミック化も進んでいて、この記事で紹介した中では今年(2023年)8月に『汐の声』と『わたしの人形は良い人形』が電子でも紙でも読めるようになった。紙の単行本なら、ページを開いて悲鳴をあげそうになる。電子ならどうだろうか。読み比べてみるのもおすすめしたい。

※初出誌一覧
『化野の…』:「プチコミック」(小学館)1982年1月号
『汐の声』:「プチコミック」(小学館)1982年11-12月号
『わたしの人形は良い人形』:「ASUKA」
(角川書店 ※現在のKADOKAWA)1986年3-5月号

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