第169回 芥川賞・直木賞贈呈式レポート 受賞作品の評価ポイントは?
直木賞を受賞した垣根涼介は、1966 年、長崎県諫早市生まれ。筑波大学卒。2000 年「午前三時のルースター」で第 17 回サントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞し、デビューした。これまで、『ワイルド・ソウル』で第 6 回大藪春彦賞、第 25 回吉川英治文学新人賞、第 57 回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞。『君たちに明日はない』で第 18 回山本周五郎賞受賞。『光秀の定理』で第 4 回山田風太郎賞候補。『室町無頼』で第 6 回本屋が選ぶ時代小説大賞受賞、第156 回直木賞候補、第 7 回山田風太郎賞候補。『信長の原理』でも第 160 回直木賞候補となっている。
直木賞の選考委員を代表して浅田次郎が、「1回目の投票で4名が残り、2次投票を行った結果、受賞作が決まった」と選考の過程を説明。そして、受賞作について「今回は両作品が時代物。垣根さんの『極楽征夷大将軍』は大変長い小説ですが、足利幕府の成立の過程を丁寧に小説としてあらわしている大変な力作。垣根さんの愚直なくらい真面目な長編に比べると、永井さんの『木挽町のあだ討ち』は大変に技巧的な仕上がりで好対照。審査員の間でも大変上手い小説と意見が出て、受賞が決まりました。2次投票で票が拮抗した結果、2作受賞となりました」と、講評を述べた。
直木賞の受賞会見では、まず垣根涼介が登壇し、「こういうまばゆい場所に出るのがずいぶん久しぶりなので緊張しています」と笑顔を見せながら、「連載に2年半くらいかかり、最終的には原稿用紙1700枚くらいになりました。単行本化のために1350枚まで削ったのが辛かったのですが、受賞で苦労が報われました」と語った。
また記者からの質疑応答の中で、「10年前から歴史小説を書き始めていますが、この10年で今までに他の賞を5回くらい候補に挙がっていますが、すべて受賞に至りませんでした。6度目でこうして壇上に居られて、ほっとしています。今回の小説は、読んでいる方に笑って読んでくれればいいと思って書きました。いつも、面白おかしく読んでもらい、読後に何か残る小説を書けるように努力しています」と述べた。
続いて永井紗耶子が登壇。 永井紗耶子は、1977 年、神奈川県横浜市出身。慶應義塾大学文学部卒。2010 年『絡繰り心中』で第 11 回小学館文庫小説賞を受賞し、デビュー。『商う狼 江戸商人杉本茂十郎』で第 40 回新田次郎文学賞、第 10 回本屋が選ぶ時代小説大賞、第 3 回細谷正充賞受賞。『女人入眼』で、第 167 回直木賞候補。今回の受賞作『木挽町のあだ討ち』は、第 36 回山本周五郎賞受賞を受賞している。
永井紗耶子は「吉報を受けてから、嬉しいというのと、怖いのというのと、なんだこれというのが極まってきました。“恐悦至極”とは、こういう感じなのかなと思います。読者の方、書店の方から応援をいただいた作品ですので、会場に来る前にもみなさんの応援があるから何があっても大丈夫という気持ちでいました。ここまでたどり着けてよかったなと思っています」と、喜びを語った。永井は無類の歌舞伎ファンで、受賞の知らせはゲン担ぎのつもりで歌舞伎座の横の喫茶店で待っていたとのこと。受賞の連絡をしようとしたところ、早くも情報を掴んだ友人知人から大量の連絡があったとのことだ。
また、記者からの質疑応答の中で、「私自身がとても楽しく書けた小説なので、読者にも楽しんでいただけると思っています。歴史時代小説は難しいんじゃないか、歴史に詳しくないからと嫌厭されることがありましたが、どんな人でも手に取ってもらえるようにと書いてきました。読みやすさには自信を持ってきましたが、評価に繋がるとは思っていなかったので、望外です」「現代社会にも通底するテーマを書きたいという思いは、常に私の中にありました。江戸時代を通じて現代社会を映し出そうと思って書いたので、それを選考で読み取っていただき、評価をいただけるとはなんて幸せなのだろうと思います」「ライターでインタビューをした経験が執筆に生きている。自分の目の前に登場人物がいて、喋らせているように執筆しました」と述べた。
溶接工からジュニアアイドルまで、多様なテーマ並ぶ第169回芥川賞 候補5作品を徹底解説
2023年7月19日(水)に第169回芥川賞が発表される。候補作は以下の5作品(50音順)。 ・石田夏穂『我が手の太陽』(『群…
今回の候補作は下記の通り。
■第169回芥川賞 候補作
石田夏穂『我が手の太陽』(群像5月号)
市川沙央『ハンチバック』(文學界5月号)
児玉雨子『##NAME##』(文藝夏季号)
千葉雅也『エレクトリック』(新潮2月号)
乗代雄介『それは誠』(文學界6月号)
■第169回直木賞 候補作
冲方丁『骨灰』(KADOKAWA)
垣根涼介『極楽征夷大将軍』(文藝春秋)
高野和明『踏切の幽霊』(文藝春秋)
月村了衛『香港警察東京分室』(小学館)
永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』(新潮社)