浦沢直樹、漫画家が使う「嘘」を公開 YouTubeで語った“読みやすい漫画づくり”のポイントがすごかった

 今年で漫画家デビュー40周年を迎え、5月末には初期の短編集『初期のURASAWA』電子版を刊行した浦沢直樹氏が、公式YouTubeチャンネル「浦沢チャンネル -URASAWA CHANNEL-」を更新。自身でペンを取り、「読みやすい&リズムの良い漫画の"つくり"」を解説した。

【基本のキ】読みやすい&リズムの良い漫画の"つくり"を解説

 2021年4月、「『漫画』を起点にした様々な動画を発信する」として開設された「浦沢チャンネル -URASAWA CHANNEL-」。動画の公開本数こそ多くないが、『MONSTER』Dr.テンマをモチーフにスクリーントーンの貼り方を解説したり、『MASTERキートン』風のコマ割りを自ら描画して見せたりと、漫画ファン垂涎のコンテンツを提供してきた。

 浦沢氏は1983年、『初期のURASAWA』にも収録されている「BETA!!」で商業誌デビュー。そこから数えて40周年となるわけだが、新人賞を受けたのは81年だったこともあり、本人はあまりピンときていない様子。漫画を本格的に描き始めたのは8歳の頃で、そこから数えれば「55周年」。いずれにしても誰もが認めるヒットメーカーであり、大ベテランの浦沢氏が自ら、漫画の描き方を解説する動画をアップしてくれるのだから、いい時代になったものだ。

 詳しくは動画を確認していただきたいところだが、浦沢氏はコマ割りからペンを走らせ、細かく解説していく。描き始めたのはカフェで二人が会話する何気ないシーン。見開きの漫画で最初に目に入るのは右上のコマであり(※海外では逆になるケースも多い)、ここで登場人物AとBが「ねえ ちょっと 聞いてんの?」「聞いてるわよ」と一言ずつ発しており、次のコマでAが「冗談じゃないのよ」と話し始める……というスムーズな読み心地だが、この「本題に入るスピード感」が重要で、これを意識していないと、1コマ目でAが話題を切り出し、Bが2コマ目でそれに反応する、という形にもなりがちだ。情報量として無駄なコマが一つ増え、テンポも悪くなる。

 また、Aが右手側に座っていることも重要だ。つねにAが会話をリードする展開なら、先に目に入る右側にAを配置することで、余計な構図の転換が必要ない。逆にBが右側に座っているとすると、窓際の席なら窓の外から二人を描く並びが自然になり、スムーズに読み進めるのが難しくなる。聞けば当然のことだが、このバランスがうまくできている漫画は読みやすく、読者がドラマに入っていきやすい作品だといえるようだ。

 また、浦沢氏は漫画家がよくついている「嘘」も公開。先ほどのような二人の会話で、Aが奥にいて、Bが手前にいる場合、現実ならBは後頭部しか映らない形になるが、漫画では横顔が描かれているケースが多いという。現実に置き換えるとBはAと向き合っているというより、かなり横を向いている構図になるが、あえて顔を見せることで、「表情の演技」を効かせている。Bがどんな気持ちでAの話を受けているのか……という、後頭部の描写だけでは伝わらない情報を一コマに収めるテクニックなのだ。

 漫画家が作画にどこまでこだわって理論化しているか、よくわかった今回の動画。YouTubeでは、漫画家やイラストレーターによる解説動画が人気を博しているが、これほど知名度と実力がある作家の「講座」は少ないだろう。漫画家を目指している人も、漫画がどのような理屈で成り立っているか知りたい人も、ぜひチェックしてみよう、

■参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=PvBw8mz3Qnc

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