【漫画】日本人の両親を持つ米兵、“捨て駒”からどう生き抜く? 創作漫画『太陽と星とニギリメシ』が描く理不尽と人間力

本当に表現したいことを見つめて

――那須さんは戦争をテーマにした作品が多いですが、なぜこのテーマで描くようになったのですか?

那須:もともと、漫画家としてデビューさせてもらい、何本か描いてはきたのですが、どうにも上手くいきませんでした。読者の評価もそうですが、自分自身でも「俺の描きたいのはこうじゃないんだ!」という思いが常にありました。そこで「自分が好きなものは何だろう」と模索した結果、戦争をテーマにした作品に行きました。

――そう思った要因は何ですか?

那須:もっともらしい理由があったわけではなく、調べれば調べるほど戦争がいかに異常な世界で、それをいかに知らないかをわかったことが大きいかもしれません。「それを表現することは意味のあることなのかな」と思い始めています。それが良いことなのかはわかりませんが。

――今回『太陽と星とニギリメシ』を制作した経緯を教えてください。

那須:前述したように読切が上手くいかず、自分の描きたいモノを模索していった結果たどり着いた作品です。ただ、ネームを知り合いの漫画家にも見せたのですが、「実際に傷つく人もいるんだよ」とあまり良い反応はもらえませんでした。確かに商業としてはあまり良いことではないのかもしれません。僕自身も従軍したわけでもありません。それでも、それらを全部踏まえたうえで「これを表現したい」という欲に抗えず、幸い担当も理解を示してくれて制作しました。

マニア向けではなくカジュアルに読んでほしい

――登場人物はどのように作り上げましたか? ある意味“そこにいたかもしれない人”ですので、難しさもあったように思います。

那須:442部隊のインタビューはたくさんあり、それらを読んで妄想を広げていきました。その中で、「結局僕の描きたいモノは“人物”ではなくて“状況”なんだ」と気付きました。特殊な状況がまずあって、そこに放り込まれた比較的普通の人間がその状況を切り抜けるために知恵を絞り、本来必要のない覚悟を決め、家族を思い出す。そんな割とニュートラルな人物像です。

――インタビューをはじめ様々な資料を参考にしたと思います。とはいえ、作品としてのオリジナリティも描く必要があります。事実とフィクションのバランスはどのように意識しましたか?

那須:大戦闘を実際よりも小規模に、わかりやすくするためにフィクションの要素を入れてます。マニア向けのコアな戦争マンガでなく、カジュアルに読めるものにしたいと思っていて、特殊な用語や理屈を極力入れない、二次大戦に興味のない人にも読んでもらえるマンガを目指しました。そのためのフィクション要素です。オリジナリティへの意識はほとんどありません。

――「すかんぴん」「キャベツ野郎」など、現代の生活ではなかなか聞かない言葉が出てきました。セリフ選びはどのようにして行ったのですか?

那須:正直セリフ選びは本当に苦手です。師匠の山口貴由がセリフ回しの化け物のような人で、とてもそこでは戦えません。世界観が壊れない、極力端的な言葉の候補をいくつも作ってその中から選んでます。何か良い方法があるなら教えてほしいです。

事実と思われることへの不安

――戦車や武器など、とてもしっかり描かれていましたね。

那須:“兵器”はその時代の最先端のテクノロジーを詰め込み、いかに人を効率よく殺傷できるかを追求した存在と思ってます。そこには“実用”を目的としたもののみが持つすごみを感じます。そのすごみにはとても魅力を感じていて、「それをどうにか表現したい」と思ってます。

――当時の日系アメリカ人が置かれていた環境など、戦争のリアルが細かく描かれており、戦争の怖さや醜さを感じさせる内容でした。

那須:そう感じてもらえたなら嬉しいです。とはいえ、結局どこまでいっても僕の妄想、フィクションなので、「これが事実なんだ」と誤解されるのは怖いです。「僕の描いている作品は決してニュートラルではないんで、そこを誤解しないでもらえるといいな」と思ってます。ただ、僕の中ではもちろん真実だと思って描いていますが。

――今後はどのように漫画制作を行っていく予定ですか?

那須:この戦記シリーズの短編が単行本分溜まったので、単行本にするべく掛け合ってみたのですが、残念ながら断られてしまいました。やはり特定の主人公が活躍するフォーマットでないと商業としては容易ではありません。ですので、特定の主人公を中心とした話として進化させるべく悪戦苦闘中です。表現したいことが伝わらず、悶々とした日々を過ごしてます。ただ、なんとか日の目を見られるよう頑張っていますので、見かけた際には手に取っていただけると嬉しいです。

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