『チェンソーマン』第二部でなぜ作風が激変した? 藤本タツキの巧みな”内面描写”を考察

『チェンソーマン』デンジはなぜモテる?

藤本タツキにとってデンジが異色の主人公だった理由

 2人の主人公の違いは、作品の方向性にも大きく影響している印象だ。デンジを主人公とした第一部は、葛藤のないハイスピードな展開と、思い切りのいいアクションシーンの連続が特徴だった。

 他方でアサが主役となった第二部は、じっくりと内面の変化や人間的な成長を描いており、物語上必要なアクションシーンしか描かれていない。

 さらに第一部と第二部では、主人公と“相方”の関係が変わったことも印象的だ。デンジとポチタの会話シーンが少なかったのと対照的に、第二部はアサとヨルの掛け合いが物語の主軸となった。

 しかもアサとヨルは瓜二つの見た目なので、読者目線では「自己との対話」のようにも見える。キャラクターの内面を丁寧に掘り下げるための仕掛けとして、これ以上ないお膳立てだろう。

 そもそも藤本タツキは自作において、巧みな内面描写を行ってきたことでお馴染みだ。たとえば連載デビュー作『ファイアパンチ』では、消えない炎をまとった主人公・アグニが生の苦痛にあえぐ姿が描かれている。

 さらに2021年7月に発表された長編読み切り『ルックバック』は、内面描写の極致とも言える作品。「漫画」によってつながった女性2人の壮絶な運命を描き出し、多くの人を感動させた。

 だとすると、『チェンソーマン』第二部は作風が変わったというより、本来の作風に戻ったと言うべきなのかもしれない。むしろ内面なしの主人公を描いた『チェンソーマン』第一部こそが、藤本にとっては実験的な試みだったのだろう。

 とはいえ、第二部にも第一部の核となるテーマや世界観が継承されていることは間違いない。別々の作風が融合することによって、新境地に到達したと見ることもできそうだ。

 藤本の新たな挑戦は、どんな着地に至るのだろうか。今後の展開が楽しみでならない。

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