『チェンソーマン』デンジとアサの戦い方の違い 第二部が描く「考えすぎるがゆえの強さ」

『チェンソーマン』アサの強さ

 藤本タツキの漫画『チェンソーマン』(集英社)の第14巻が刊行された。漫画アプリ「少年ジャンプ+」で配信されている本作は、悪魔が跋扈する世界を舞台にしたダークファンタジーだ。

 週刊少年ジャンプで2018年に第1部の連載がスタートした『チェンソーマン』は、チェンソーの悪魔と契約した少年・デンジ(チェンソーマン)のぶっ飛んだキャラクターと、斬新なマンガ表現を駆使した予想不能のストーリーが大きな話題となった。

 その後、2020年末に第1部の連載は終了し、2022年の7月から「少年ジャンプ+」に舞台を移し、第2部がスタート。第2部ではデンジの出番が減り、女子高生の三鷹アサの物語が展開されてきたが、二人のやりとりが増えたことで、第1部との違いが、より際立ったように感じた。

※以下、ネタバレあり

 アサとデンジの水族館デートに始まり、第1部のラスボスだったマキマ(支配の悪魔)の生まれ変わりでデンジと同居している少女・ナユタの登場。そして、世界を最悪の恐怖に導く悪魔の襲来と、見どころ満載の14巻だったが、もっとも印象的だったのが、第一部の主人公・デンジと第二部の主人公・アサの違いである。

 戦争の悪魔・ヨルと契約しているアサは、自分に好意を持つものを武器に変える能力を持っており、アサが罪悪感を抱く対象を武器化するほど武器の威力が強まる。デンジを武器化するためにアサはデートに誘ったのだが、自意識過剰で他人の気持ちを理解することが苦手なアサは空回りして、ドツボにハマっていく。

 一方、デンジは第1部で多くの女性に翻弄された経験が生きているのか、アサと話していても心に余裕があり、常に優しくリードしている。

 第2部の主人公がデンジでないことに初めは困惑したが、おそらく第1部でデンジの成長物語は描ききったという自負が藤本タツキにはあるのだろう。「女にモテたい」という欲望こそ相変わらずだが、一つひとつの振る舞いには、かつてデンジが経験した戦いや築いた人間関係によって得た成果がにじみ出ている。会話の節々からデンジが成長したことがわかる場面が多いのも、この14巻の特徴である。

 また、アサが主役になったことで大きく変わったのが、悪魔との戦いの見せ方だ。第2部では、かつてデンジが戦った悪魔が地獄から蘇り、姿を変えて再登場しているのだが、この14巻では、永遠の悪魔が再登場している。

 永遠の悪魔は、第1部では公安のデビルハンターを閉鎖空間と化したホテルに閉じ込めて、デンジの命を要求した。しかし、今回の永遠の悪魔は姿を隠し、アサたちを餓死するまで追い詰めようとする。

 以前の戦いでは、永遠の悪魔にわざと食われたデンジが、血まみれの戦いを延々と繰り広げ「自殺したくなる」まで追い詰めるという力技で倒した。

 対してアサは、デンジと共に水族館の中にあったお金を集めて、そのお金(100万円)で水族館の所有権を買取る。そして、水族館を武器化することで閉鎖空間から脱出し「水族館を台無しにしてしまった」という罪悪感で作られた水族館槍(アクアリウムスピア)で、永遠の悪魔を倒すという展開を見せた。

 つまり武器化能力を応用して、敵が作り出した閉鎖空間から脱出したのだが、物事を深く考えないデンジと、つまらないことを延々と考え続けるアサとでは、ここまで戦い方が変わるのかと意外だった。

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