【漫画】少年たちが拳で語り合うーー幼馴染だけど仲が良くない二人を描いたSNS漫画が面白い

ーー子どもたちが拳を交わし、拳を合わせるまでの過程にどこかなつかしさを覚えた作品でした。創作のきっかけを教えてください。

碓氷さつし(以下、碓氷):3年ほど前に引っ越したのですが、引っ越しを期にこれまでの人間関係が希薄になってしまい、人と関わることについて考えることが多くなりました。そんななか近所を散歩していると、中学生くらいの男の子2人が自転車で並走しつつグータッチをしている光景を目にしました。その光景から感じたプリミティブさがずっと心の中に残っていて。

 それから3年にわたり創作活動をするなかで生まれた友人関係による支えもあり、今となりグータッチをする男の子たちを題材にした作品を形にすることができました。

ーー二人の間にいた彼女が殴り合いを提案した背景とは?

碓氷:個人的な感覚として、中学時代は女の子の方が一回りほど早く成長するような気がします。たぶん本作に登場する女の子も少し大人びていて、彼女は以前からいつか男の子ふたりの関係が立ちいかなくなってしまうことを感づいていたのかと。だから彼女はひとつのおせっかいとして、ふたりに殴り合って欲しいと話したのではないかと思います。

ーー本作は足元を映すシーンが多いと感じました。

碓氷:自分は人と話しているときに目を合わせて話すことが苦手で、よく目をそらしてしまいます。そのためか自分の記憶をたどってみると、大事な話をしたときは相手の顔よりも相手の手元や部屋の片隅と紐づいて印象に残っています。

 そんな経験を漫画で描くことで作品を読んでいただいたみなさまに、このときにどんな表情をしていたのか、どんなことを感じていたのかと考えられる余白をつくり、思いを巡らしていただけたらありがたいです。

ーー作中では登場人物の名前が描かれませんでした。

碓氷:自分は漫画を描くうえで登場人物の名前を出すことはほとんどしません。自分にとって漫画を描くことはインタビューのようなもので、実在する人間の体験や生活を聞いて漫画にする気持ちで描いています。インタビューの中で聞けずじまいだったことはそれ以上描くことができないため、話を聞くなかで名前が登場しないときは、そのまま人物の名前を出さずに漫画を描いています。

ーー本作のタイトル『子どもたち』や登場する中学生の彼らに込めた思いを教えてください。

碓氷:自分は中学生、高校生のころにいい経験や成長ができなかったという思いがあります。そのため中学時代を題材として漫画を描くときに、どうしても「こうありたかった」という願いが作品に反映されていくのかなと思います。

 ただ、これから中学時代を経験していく子どもたちに対しては、いい経験を通して成長してほしいという祈りも心の中にはあります。

ーー漫画を描きはじめたきっかけを教えてください。

碓氷:高校の学級文庫にこうの史代さんの『ぴっぴら帳(ノート)』が置かれており、その作品が自分の作風につながるきっかけでした。そのあと大学で漫画研究会に入り創作活動をはじめ、コミティア(一次創作物の即売会)の存在も知りました。実際にコミティアで出展するようになったのは4年ほど前からです。

ーー碓氷さんが漫画を通じて表現したいものは?

碓氷:現在は創作活動とは関係のない仕事をしながら漫画を描いていますが、今の自分は創作に商業性を追い求めなくていい立場の人間です。そんな自分だからこそ、できるだけ“つまらないもの”を描いていけたらいいなと思っています。

 ”つまらない”というのは物語性があまりなく、注目を集めることもなく、それでもちゃんと毎日生活を紡いでいる人の美しさのようなものだと感じています。そんな美しさを拾い集め、形にしていくことが今の自分だからこそできることだと感じながら、現在に至るまで漫画を描き続けています。

ーー今後の目標を教えてください。

碓氷:目指すような目標はないのですが、今後も変わらず生活に関する漫画を描いていけたらと思います。また今の自分がニュータウンに住んでいるというところもあるので、いつか団地といったものを題材に連作を描きたいと思っています。

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