【漫画】深海魚「ミズウオ」の生涯を描くSNS漫画『AT THE MERCY OF THE SEA』が不思議でおもしろい
ーー本作はTwitterで大きな反響を呼んでいるかと思います。反響の感想を教えてください。
さとかつ:本作の主題となる部分は多くの人にわかるよう描きましたが、出てくる生き物や作品の舞台など、細かな部分まで読み取ってくれた方が多くて驚きました。たとえば作中で“珍しい深海魚”と称して出てきた魚はすでに絶滅してしまった生物がモデルなのですが、その生き物についてコメントしてくださる方がいらっしゃり、とても嬉しかったです。
ーーミズウオを題材とした本作を創作したきっかけについて教えてください。
さとかつ:学業としてミズウオの研究を行っており、採集したり標本をつくったりするなかで浜に打ちあがり死んでしまうミズウオの生き様に感じるものがありました。自殺してしまう生き物は少ないですが、わざわざ深海から海面ちかくまで上がり、息絶える。そんなミズウオの行動になにか理由があるのかと考えながら本作を描きました。
本作を創作する前からミズウオについて漫画を描きたいという思いはあったのですが、ミズウオを題材とした作品の合同誌制作を企画してくださった方がおられ、寄稿するという目的のため本作を創作することに至りました。
ーーさとかつさんの感じるミズウオの魅力とは?
さとかつ:ミズウオの見た目が好きで、大きいヒレや鋭いキバがかっこいいと思っています。かっこいいミズウオを描きたいという思いがありますが、その思いだけでは漫画にはならないのでミズウオの生態も含めて本作を描こうと思いました。
作中でミズウオは息子たちのために自殺するという設定で描きましたが、実際は海流によって死んだミズウオが砂浜に打ちあがるのではないかという説が有力とされています。ただ僕自身はミズウオの生態と意思が絡んでいたら面白いと思っており、ミズウオの生き様を想像しながら本作を描きました。
ーー人間である少女に対しミズウオが“自分の行く末を自分で決めなければならないのはとても生きづらいでしょう”と話すシーンが印象に残っています。
さとかつ:現在の僕は大学の卒業を控え、就職活動をしている最中です。自分の意思で決めなければいけないことが多く、疲弊してしまうことも多くて。自然の力や本能で将来を決めることができたら楽だよなと思いながらこのシーンを描きました。
ーー「EVERGREEN」と描かれたタンカー(輸送船)が横切るシーンを描いた理由は?
さとかつ:人類の英知の象徴としてタンカーを描きました。投稿へのコメントで「EVERGREEN」のロゴの意味を考察してくださった方もいらっしゃったのですが、そこまで深くは考えていなかったです(笑)。単純に緑色のロゴが好きなので「EVERGREEN」のロゴを描きました。
ーー最後のページに「to be continud」と描かれているものの、本作は「つづきません」という文章と共に投稿されていたかと思います。
さとかつ:物語としてはここで終わってしまいますが、ミズウオの肉体や意思は息子たち、ミズウオを食べたカラスやトンビたちに引き継がれていくといったことを表現するため「to be continud」と描きました。こちらは投稿に対して自分の意図を完全に言い当てたコメントが寄せられていたため、大変驚きました。
ーー漫画を描きはじめたきっかけを教えてください。
さとかつ:これまでは生き物を採って満足していたのですが、あるとき自分の喜びを誰かに伝えたいと思うようになりました。そのため誰かに伝えるための媒体として漫画を描いてみようと思い、2年ほど前から漫画を描きはじめました。
ーー漫画を描くなかで表れた変化はありますか?
さとかつ:漫画を描く前から生き物について調べたり、観察してきましたが、人間は生き物の生涯すべてを観測することはできないと思っています。ただ生き物がなにかをしている様子を見て、その様子の背景にあるストーリーを想像する力が漫画の創作を通じて養われたと感じています。
ーー今後の目標を教えてください。
さとかつ:僕が描いている漫画はニッチな題材をモチーフとしているものが多く、理解や共感されないものも多いかと思います。ただ商業誌に掲載されたら嬉しいなという思いもあり、商業誌への掲載を目標にして活動していきたいと思います。