乃木坂46・鈴木絢音の“辞書愛”が詰まった対談集 卒業目前「言葉」をめぐって自身の活動を振り返る
かねてより辞書への愛をさまざまな場で発信してきた乃木坂46の鈴木絢音。その彼女が辞書の制作に携わる人々に話を聞いた対談集『言葉の海をさまよう』(幻冬舎)が、3月7日に発売された。辞書の編纂者や編集者、校正者、印刷工場、デザイナー、製作担当者や営業担当者まで、辞書を世の中に届けるプロたちとの対話を通じて、辞書という書物の成り立ちを深掘りする一冊だ。同書には写真家・新津保建秀が鈴木を撮り下ろしたカラー口絵のほか、鈴木自身によるエッセイも収録されている。
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辞書が形を成してゆくプロセスに触れる中で、辞書への愛着はどのように深まったのか。また日々の活動の中でさまざまに言葉を伝える機会の多い彼女は、他者の言葉あるいは自身が綴る言葉とどのように向き合っているのか。乃木坂46からの卒業を控えて転機を迎える鈴木に、これまでの活動における模索も踏まえながら、「言葉」をめぐって話を訊いた。(香月孝史)
言葉というのは移りゆくもの
――『言葉の海をさまよう』は、辞書の制作過程を解体しながら見ていくような対談集です。以前から、辞書への愛着をさまざまなところで語っておられた鈴木さんですが、一連の対談を通じて、辞書に対する捉え方に変化はありましたか?
鈴木絢音(以下、鈴木):辞書のことを、より人間らしく見るようになりました。なんていうんでしょう、辞書って機械的で人間っぽさから一番かけ離れている書物のようですけど、本当はそうじゃなくて、たくさんの人の経験が凝縮されている。そのことを改めて意識すると、また違った視点で読むことができます。
――『三省堂国語辞典』を編纂されている飯間浩明さんから始まって、辞書づくりに取り組まれている方々と鈴木さんとの対談からは、言葉ひとつを説明するのにも多くの試行錯誤があることが窺えますね。
鈴木:辞書を読むときに、「この語釈も、あの先生が考えられているのかな」と顔が浮かぶようになったり、例文に書かれている内容を見ると、この説明を書いた方は実際にこういう経験をされたのかな、みたいなことを考えるようになりました。
――辞書の背後に人間が見える、みたいな。
鈴木:あ、そうですそうです(笑)。先ほど言った「人間っぽさ」はそういうところです。
――辞書には“正解”が載っていると思いがちですが、そうした背景を知ると、記載された説明文も絶対的な正解ではないのかもしれないですね。
鈴木:それこそ最初は、辞書には正解しか書いてないんだと思って読んでいたんですけど、読み進めていくうちに、そして対談でいろんなお話を伺ううちに、言葉というのは移りゆくものだと改めて感じました。自分で言葉を発するときにも、正しい/正しくないとか、これはこういう意味だからこう使わなきゃとか、すごく囚われていた部分があったんですけど、それが取っ払われたなって思いますね。変わっていく言葉もあるし、新たに生まれる言葉もある。辞書一冊ではわからないですけど、二冊、三冊と読んでいけばいくほど、そのことがわかるような気がします。
――改訂を重ねることで辞書自体に変化が起こっていく様子も、本書からは窺えます。
鈴木:この本の中で辞書を売る営業の方にもお話を伺っているんですけど、改訂されるたびに辞書がどのように変わっていっているかを、広告でも工夫されているのがわかります。私が最初に読んだ辞書――“引いた”辞書ではなく――は、それこそ父が中学や高校時代に使っていたものだったので、「こんな言葉まで載っているんだ」と思った記憶があります。一言で言うと「エモい」ですけれど、味わい深いというか、その時代の辞書があったうえで現在の辞書がある。時代の移り変わりを感じることができると思います。
――辞書に携わるさまざまな立場の方々と対談をする中で、強く印象に残っているのはどんなことでしょう?
鈴木:全部が印象深いですけれど、やっぱり皆さん言葉オタクというか、「好きパワー」みたいなものが伝わってきて、それが印象に残っています。私もそうやって、何かを好きというパワーを仕事に変える力が欲しいなって思いました。
自分のことが好きになれる写真
――本書には、新津保建秀さんが鈴木さんを撮りおろしたページも収録されています。鈴木さんの1st写真集『光の角度』(幻冬舎)に続いての新津保さんとのタッグですが、事前に撮影プランについて話し合いなどはあったのでしょうか?
鈴木:まったくなかったです。もう、ただただ新津保さんについていくのみで、今の自分を撮影していただきました。
――『光の角度』の折も、鈴木さんからの希望で新津保さんが撮影を務めたとのことでした。新津保さんが撮られた写真には、もともとどんな印象をお持ちだったのでしょう?
鈴木:ずっと自分の顔や容姿が好きではなくて、コンプレックスだったんです。そんな中で、以前に一度だけ新津保さんに撮影していただいた写真が、自分でも自分のことが好きになれるくらい素敵な写真だったんですよ。『光の角度』のときは、そんな奇跡みたいな写真がいっぱいある一冊だったらいいなという思いも込めて、新津保さんにお願いして。それが縁で、またこうしてご一緒させていただくことができました。
――今回、『言葉の海をさまよう』に収録された新津保さん撮影の写真をご自分で見られて、どんな感想ですか?
鈴木:えー、……ふふふ、綺麗だなって思います(笑)。