まるで『BLUE GIANT』のB面ーー小説『ピアノマン』で知る“本当の沢辺雪祈”

小説で知る『BLUE GIANT』沢辺雪祈

 アニメーション映画が絶賛公開中の『BLUE GIANT』(石塚真一)。作中に登場するピアニスト・沢辺雪祈を主人公とした小説『ピアノマン〜BLUE GIANT雪祈の物語〜』が、発売から4日で3刷重版が決定するなど注目を集めている。漫画はもちろん、映画でも描かれていなかった沢辺雪祈の新たな一面が垣間見える本作の魅力とは?

本当の沢辺雪祈とは?

 世界一のジャズプレイヤーを目指す主人公・宮本大。そんな彼のジャズマン人生を語る上で絶対に欠かせない人物の一人、それが沢辺雪祈だ。背が高くてスラッと長い手足に、サイドを刈り上げた黒髪のロングヘアがトレードマーク。そのビジュアルもさることながら、ピアニストとして圧倒的な存在感を放つ彼の才能に一目惚れした方も多いのではないだろうか。そんな雪祈は『BLUE GIANT』という物語において、生粋のリアリストとして描かれているように感じる。

 地元・仙台で毎日河原でサックスの練習に明け暮れていた大。その努力を裏付けるかのように、手にでかいタコを携えていた大だったが、そんな彼と初めて出会った雪祈はこう言い放つのだ。

死ぬほど努力を積もうが、手にマメができるほど楽器を吹こうが、才能のないやつは、全っ員ヘタクソ。
ーー『BLUE GIANT』5巻より

 これは、雪祈がジャズの世界の厳しさを理解し、それでもなお本気でその世界に挑もうとしているからこその発言だ。だが、この超現実主義者かつ、思ったことを包み隠さず全て言ってしまう性格は、作中においては上から目線の皮肉屋として映ることが多々ある。

 けれど、全部違うのだ。私たちは“沢辺雪祈”のことを何一つ理解していなかったのだと。これが、『ピアノマン〜BLUE GIANT雪祈の物語〜』を読んで一番最初に読んで感じたことだった。

「思ってたより、悪くなかったわ。」に隠された感情

 『ピアノマン〜BLUE GIANT雪祈の物語〜』は雪祈の幼少期まで時を遡る。彼とピアノの出会い、ジャズへの目覚め、地元・長野でのピアノ一色の青春時代、そしてどうしても10代で「ソーブルー」の舞台に立ちたかった本当の理由。漫画はもちろん、映画でも描かれることのなかった雪祈の人生が丁寧に紡がれている。そんな彼の知られざる一面はもちろんだが、本作の一番の魅力といえばやはり『BLUE GIANT』の物語・演奏全てが“沢辺雪祈の目線”で描かれている点にあると思う。

 映画や漫画ではリアリスト、そして上から目線の皮肉屋として映る雪祈。それを感じるエピソードの一つにドラム・玉田俊二が絡むシーンが挙げられる。“才能ある者同士が互いを踏み台にして才能を伸ばし、名を挙げていくのがジャズ”という自論を持つ雪祈は、大と結成した「JASS」にドラム初心者の玉田俊二が加入することに反対していた。

そこはさぁ玉田君、ドラム叩ける人間が座るとこなんだわ。
ーー『BLUE GIANT』5巻より

 雪祈から辛辣な言葉を浴びせられながらも、必死の努力を重ねた玉田。その後は無事「JASS」に加入し、なんとか2人に追いつこうとするものの、初ライブでは玉田だけが実力不足で散々な結果に終わる。けれど、そんな玉田に雪祈はこう言葉をかける。

思ってたより、悪くなかったわ。
ーー『BLUE GIANT』6巻より

 あの雪祈が玉田の努力を認めたように受け取れる、感動的かつ印象的なシーンだ。だが、果たして雪祈はこの言葉を出すのに、明らかに実力が追いついていない玉田の演奏に、いや、それよりも前に辛辣な言葉を投げかける時に何を思っていたのか......想像できるだろうか。

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