『ラブライブ!』の大人気キャラを描いた室田雄平 自身のイラストを「賞味期限切れ」と語る理由と次なる挑戦
24歳にして突如、『ラブライブ!』シリーズのキャラクターデザイナーに抜擢され、数々のかわいらしいキャラクターを生み出し、人気を牽引するアニメーターになった室田雄平。シリーズの人気は第2作『ラブライブ!サンシャイン!!』で頂点に達し、話題を席巻した。
室田は2010年代のアニメ界で、もっとも目にされたキャラクターをデザインした一人といえるだろう。ジャケットのイラストを描いたCDはヒットチャートの常連になり、『ラブライブ!サンシャイン!!』の舞台となった静岡県沼津市には聖地巡礼に押し寄せる“ラブライバー”が続出。さらに作品から生まれたアイドルグループは紅白歌合戦にも出場し、そのアニメ制作にも関わったほどである。
しかし、室田は著書『アニメーター室田雄平が考える ヒットするキャラクターデザインの作り方』で、自身の絵を「賞味期限切れ」と語っている。それは大ヒットに立ち会った人物ゆえの苦悩といえるのではないか。今回は多忙を極める室田に直撃インタビューし、絵柄を模索しながら、新たなキャラクターを生み出そうとする姿に迫った。
アニメの商業色が強まっている
――室田先生の著書『アニメーター室田雄平が考える ヒットするキャラクターデザインの作り方』では、実際にキャラクターデザインを手掛ける過程を解説しておられます。子どもの頃に見たアニメと現在のアニメを比べて、キャラクターデザインに求められることが変わってきたと感じることはありますか?
室田:現在のアニメーションは、商業色が一段と強くなっているかもしれません。そのため、キャラクターデザインに求められることも、ひと昔からすると変化していると思います。
――室田先生が長年手掛けておられる、アイドルアニメを例に説明していただけますか?
室田:アイドルアニメは、チームがあって、その中にキャラクターが複数人いるのが普通ですよね。僕がこの分野に関わり始めたとき、プロデューサーから「全員がセンターで、全員にライトが当たってもおかしくないようにデザインしてほしい」と言われました。全員がセンターになるということは、全員にそれぞれファンがついてグッズ化されることを前提にデザインしなければいけないのです。
――なるほど。5人なら5人、9人なら9人全員が主役級で、いわゆる脇役がいないということですね。室田先生もその教えを念頭にデザインを起こしてきたのでしょうか。
室田:そうですね。僕が本のためにデザインしたこの5人のキャラクターも、全員のグッズが出ることも想定して、全員に同じくらいの労力をかけています。そして、個々のイメージを決めたあと、並べたときの全体のバランスを見て微修正を加えていますね。
――全体で見たときも、単体で見たときも、見栄えのするデザインが求められるのですね。商業色が強いとなると、将来的な商品化を見越してデザインされることはあるのでしょうか?
室田:僕が手掛けた作品は、当初は小さなタイトルとして始まりました。現在のような規模になるとは想定していなかったため、最初はそこまで考えていませんでした。それに、僕はプロのアニメーターになって、1年もたたないうちにキャラクターデザインに関わるようになったので、試行錯誤をしながら学んだ感じです。ただ、最近はCDジャケットで見栄えするように……といった具合に、多少は意識することもありますね。
――とはいえ、あまり過剰に意識するのも考えもので、バランスが難しいところですよね。
室田:はい。アニメはキャラクターデザインだけで成り立つわけではありませんからね。シナリオだったり、キャラ立ちさせる性格の設定だったりと、いろいろな要素が加わってキャラクターが生まれるわけですから。周囲の意見も参考にしたうえで、どの要素を抽出してデザインするのか……こうした部分に、キャラクターデザイナーの腕の見せ所があると考えています。
アニメと漫画のキャラクターデザインの違い
――室田先生は漫画家を目指したこともあると伺っていますが、アニメーターも漫画家もキャラクターデザインに関わる仕事です。それぞれの業種ならではの特色や、違いはあるのでしょうか。
室田:アニメーターは他人の絵を真似て、芝居させる能力は一流です。けれども、デザインを起こす力は圧倒的に漫画家さんが優れていると思いますね。僕はキャラクターの表情もデザインの一環だと思いますが、気持ちの籠った絵を描かせたら漫画家さんは圧倒的に得意でしょう。特に、生きた表情は漫画家さんの独壇場だと思っています。
――絵を描く仕事でもだいぶ異なりますね。
室田:アニメーターは、どうしてもキャラクターを動かすことを前提にデザインを考えてしまうんですね。普段、アニメーターがキャラクターの設定表を作るときも、いろいろな角度から見たときにデッサンがとれていることを重視します。しかし、デッサンに捕らわれると、かえって自由なデザインができないこともあります。
――室田先生が描くキャラクターは表情が豊かです。これは漫画から学んだ表現なのかなと思いますが、いかがでしょうか。
室田:漫画家さんやイラストレーターさんの絵柄を参考にすることが多いですね。僕はアニメよりも漫画で育っているので、意識的に漫画らしい表現に近づけることが多いです。あと、イラストレーターさんはパッケージ能力が高い絵を描かれると思いますし。それぞれのいいところを学ばせていただいています。
――室田先生のデザインは一目見てインパクトに残りますし、これまでデザインされたキャラを見ても、似ているデザインがないのが驚きです。それはひとつのジャンルや絵柄に捕らわれずに、様々なものから吸収し続けたからなのかもしれませんね。
室田:それはよく言われますね。今でも特定の絵柄に染まっていないので、自由な発想ができるというのはあると思います。24歳でキャラクターデザイナーに抜擢されたので、教えを乞う明確な師匠がいませんでしたし、もともと一人でやるのが好きだったんです。教われば絵の技術力はもっと速く成長できたかもしれませんが、のらりくらりとマイペースでやるほうが性格に合っていましたね。
――女児向けアイドルアニメの『プリパラ』などと比較するとわかりますが、室田先生がデザインされたキャラはほとんどのキャラにまつげが少ないか、もしくはないですよね。
室田:それはあまり指摘されたことがなかったのですが、よく見ると、そうですね。
――少女漫画だとまつげをこれでもかと盛りますが、室田先生が描く女の子はまつげがないせいか、中性的な印象を受けます。
室田:意識したわけではないのですが、僕が一番見ているのが少年漫画なので、その体験に即しているのだと思います。社内でキャラクターデザインのオーディションに受かったときにも、少年漫画っぽい絵柄が好まれたんじゃないかな。もっとも、アニメもカットによってはまつげの表現が必要なので、例えば顔のアップのときは設定よりも盛ったりすることはありますが。