佐々木チワワが語る、歌舞伎町とホストクラブ文化 恋愛観と金銭感覚は今どうなっているのか

佐々木チワワインタビュー

歌舞伎町における恋愛観

――ホストクラブを語る以上は、恋愛のことを避けては通れないと思います。本書にもさまざまな形の「愛」が登場しますが、ホストクラブでの恋愛と一般的な恋愛、たとえば、大学における恋愛とは何が違うのでしょうか。 

佐々木:先ほどの話と重なりますが、お金を使わずに会えるかどうかが大きいと思います。というのは、お金を介することで、自然とルールが生まれるんですね。ホストクラブでは、ルールとして一人の女の子は一人のホストしか本指名(そのお店で一番気に入ったホストを自分の担当ホストにすること)ができません。また自分が誰よりもそのホストに愛情を持っていると伝えるためには、ほかの女の子よりもお金を使わなくては……という計算も自然に生まれます。大学の場合は基本的には自由恋愛ですし、好きになった人をライバルから奪うためにどんなことをしてもいいわけですけど、ホストクラブの場合はある程度は規律を守る必要があります。 

――そこには、どれくらい相手を愛しているかの指標がお金で数値化されてしまうような問題もあると思います。 

佐々木:実際、私も大学の子と付き合っていた時に、あまりお金をかけないデートプランを提示されたら、私のためにお金を使うこともできないのかと思ってしまっていたので、やはり歌舞伎町の価値観に影響されているのかもしれません。 

 でも私は、ちゃんと大事な場面でお金を使える人が好きなんですよ。お金の使い方がうまい人には、美的なセンスを感じます。たとえば、高級なレストランで食事をする機会を大切にできる人。家で作った方が安いじゃんとか言っているような人もいますけど、それだけの値段がついている背景には、空間演出や料理へかけた時間、食材選びなどもあります。そうした背景も知って、興味と敬意をもって接せられる人と食事に行くのが好きです。自分の価値観からして高いと感じるものも、他の人からしたら特別なものだと思うので、そこにケチをつけたくはないなと思います。お金の使い方は自己満でも応援でも自由ですから。例えば、歌舞伎町の一番好きな飲食店では、よく高いシャンパンを開けるようにしているんですけど、それはその店に感謝して、続けてほしいと思うからです。「ありがとう」とか「美味しかったです」とか、言葉で伝えるのもいいですけど、高い食事を注文して、その店の売り上げを伸ばすって一番ダイレクトな支援になりますよね。歌舞伎町では、「おつりはいりません」とお客さんが言う現場に居合わせることも多いですし、そういう文化があるのはとてもいいことだと思います。 

「居場所」としての歌舞伎町


――佐々木さんは、ホストクラブ以外では歌舞伎町でどのように楽しむのでしょうか。 

佐々木:シーシャ(水たばこ)の専門店に行くことが多いです。ゴールデン街の店に行くことも多いですし、誰かといるときは結構相手に合わせます。シーシャの店にいますとInstagramに投稿したら、知り合いから「行っていい?」と連絡が来るようなことも多くて。私、仕事相手の人、ホストの人、大学の友達で飲んだりしたこともあります。誰かと密に連絡を取って、来週の何曜日の何時にここで、というような予定の決め方はあまりしないですね。行ったら誰かしらはいるから、そこにいる人で楽しもうというテンションです。たぶん、街を歩いていて知り合いに会う確率は大学のキャンパスより多いですし、街全体が居場所という感じです。 

――佐々木さんが考える、歌舞伎町の「色」とは。 

佐々木:毎日決まった人たちが出勤していて、ビジネス街という印象が強い一方で、仕事を離れて楽しめる場所もいろいろ充実しているので、生活と仕事を一体にできる街という側面も強いかと思います。同時に、仲間意識が強いですね。これはよくたとえ話として使うのですが、酔いつぶれた若者が倒れていたとして、渋谷だったらまずスルーされるんですけど、歌舞伎町だったら「お兄さん大丈夫」と声をかけたり、水を持ってきてくれたりすることが多いんですね。強弱はあれど連帯意識は確かにあって、ふとした瞬間にそれを感じられるところが好きですね。 

――歌舞伎町について、さまざまな魅力をお聞きしてきました。逆に、これから長期的に見て改善すべき点はありますか。 

佐々木:未成年からお金を搾取するビジネスが、いまだに跋扈していることは大きな問題だと思います。犯罪に巻き込まれる可能性があると、安心してくつろげる場所とはなりませんし、街としてのイメージも暗いままです。 

 そしてさまざまな施設の品格を、より上げていくことはできると思います。ホストクラブにしても、接客を応用がきくものにして、会社の接待などにも使える場所にはできるでしょうし。ちゃんとした歓楽街として、分別のある大人が楽しめる街としてのイメージアップができればいいのではないかと思います。 

――本の最後には、佐々木さんと担当ホストさんとの対談が収録されています。その言葉からは、ホストという立場ならではの価値観、とりわけ恋愛観が見えてきて興味深いです。佐々木さんの考える担当ホストさんの魅力とは。 

佐々木:たくさんあるんですけど、一つに絞って話しますと、言葉が面白いことですね。送ってくるLINEの文章がポエミーで、なんか歌詞みたいで。たとえば「大好きお前がずっとそばにいて」みたいに、倒置法めいた感じでメッセージを送ってくることもあって。文節ごとに区切ったりすることもある。私にはあまりしない表現とか言葉選びがとても好きです。 

 面白さと同時に素直さが感じられる人で、だからこそこちらが教えられることもあります。一度めちゃくちゃ喧嘩した時に、言葉を必要以上に荒げてしまったことがありました。そうしたら、「お前は文章を書く仕事をしているのに、人が傷つく言葉もわからないのか」と言われて、結構落ち込んだんですよね。でも落ち込んでいたら、「お前がこう言って傷つくとは思わなかった」と言われたりもして、そんなやりとりが妙に面白かった。 

 今年の11月で1年の付き合いになって、記念の日に『歌舞伎町モラトリアム』の見本誌をプレゼントしました。彼からは花束と手紙をもらって、手紙の文章がちゃんと詩的だったのも、彼らしくて嬉しかったですね。おかげで、私は歌舞伎町で一番幸せな女の子になれています。 

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