『スノーマン』、『プチ・ニコラ』絵本作家の巨頭相次ぎ逝く  改めて触れたい永遠の名作

(左から)『スノーマン』は『ゆきだるま』(評論社)として出版。『Bonjour! プチ・ニコラ (プチ・ニコラシリーズ1)』(世界文化社)

 時代も国境も越えて愛されている名作絵本の作者が連日亡くなり、各国のファンから追悼の声が寄せられている。英国発のクリスマス絵本の名作『スノーマン(The Snowman)』、そして、フランスの国民的絵本シリーズ『プチ・ニコラ(Le Petit Nicolas)』。夏休みの子どもたちへのギフトだけではなく、大人が改めて読みたいふたつの作品の魅力に、いまあらためて浸ってみたい。

 2022年8月9日、クリスマス絵本の名作『スノーマン(The Snowman)』等で知られるイギリスの絵本作家レイモンド・ブリッグズ(Raymond Briggs)氏が死去。享年88歳。

 また、8月11日には、フランスの人気絵本シリーズ『プチ・ニコラ(Le Petit Nicolas)』のイラストを手掛けた漫画家のジャンジャック・サンペ(Jean-Jacques Sempe)氏も89歳で死去した。

 レイモンド・ブリッグズは1934年生まれ。ジャンジャック・サンペは1932年生まれとほぼ同世代。かつて子どもだった大人たちが、また子どもたちに読み伝え――いずれの作品も、ヨーロッパのみならず世界中で愛される絵本を制作した。

 1978年刊の『スノーマン』は、主人公ジェームズがつくったスノーマン(雪だるま)に、クリスマスの夜、命が宿るというストーリー。父親と母親が眠った家の中で一緒に遊んだり、空を飛んだり……と、少年とスノーマンとの冒険を、優しく繊細な絵柄で描く。
しかし、楽しい時間は長くは続かない。

 物語の最後には、ジェームズは解けてしまったスノーマンの帽子とマフラーを目にする。ファンタジーと無常観が同居した、味わい深い作品だ。

 そして、この絵本には“文章がない”。絵だけで物語が繰り広げられるからこそ、読者それぞれの心の中に、それぞれの世界が広がる。読み返すたびに会話のニュアンスが変わるかもしれないし、感じる事柄も変わるかもしれない。その“余白”が子どもの想像力や感受性を育み、大人が読んだときも、どこかはっとさせられるのだ。

 『スノーマン』は、世界で550万部以上が売れ、’82年にはアニメーションも制作された(アニメは印象的な劇中曲と共に、クリスマスの定番になっていく)。

 ジャンジャック・サンペ氏(画)とルネ・ゴシニ(René Goscinny)氏(作)による『プチ・ニコラ』は、日本でいう『サザエさん』のような、国民的作品だ。1950年代のフランスを舞台に、主人公の小学生プチ・ニコラと家族や仲間たちとの日常を、エスプリの効いた“くすっと笑える”タッチで描く。

 児童文学作品においても三人称が多いといわれるフランス文学だが、『プチ・ニコラ』は主人公の気持ちが一人称で綴られている。’50年代フランスという舞台設定はあるにせよ、歴史的背景や出来事は語られておらず、描かれるのは極々普通の一人の少年プチ・ニコラの日常だ。だからこそ、子どもにも大人にも共感を呼び、時代に左右されない普遍性があるのだろう。原作の力だけでなく、ジャンジャック・サンペ氏の、シンプルで、可愛くも洗練された絵の力も大きい。

 『プチ・ニコラ』は、発売から50年以上(初版は1956~1965年に全14巻が発売)を経た現在、45カ国で発売され、売り上げは1500万部を超える。フランスでは小学校の教材としても活用され、2009年には実写映画化された。日本では2020年5月に世界文化社から全5巻シリーズの新装版が発売され、手に取りやすくなった。フランス文化を気軽に感じられる本としてもおすすめだ。

 想像力、共感力、教養や教訓……絵本には人を育む大切な要素が詰まっている。子どもに優しく語りかけてくれる絵本の内容は、同時に大人の心にも滲み広がる。さまざまなメディアや教材がある現代でも、絵本にしか果たせない役割が、きっとあるはずだ。

 絵本の巨塔たちが遺してくれた世界的なベストセラーから、いまいちど大人も学びを得たいものである。

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