オカルト雑誌「ムー」編集長が語る、日本一あやしい記事を届け続ける理由

ムー編集長インタビュー

「あやしい」は好奇心の源泉

――オカルトの定義をどのように考えていらっしゃいますか。 

三上:辞書的なことをいうと、オカルトは「隠された部分」というドイツ語なんです。何かが隠されているかというのは、いわゆる聖書ーーユダヤ教、キリスト教、イスラム教の世界観が前提なんです。それは神がこの世界を作って、人間は作られたものであるゆえに、世界のことを知らない。知っているのは神しかいない。神の知識を知ることが、エソテリズム=秘教であるということです。 

 つまりオカルト=聖書における神秘主義であり、神の叡智である。それは、同時に使いようによっては、悪魔のものになるんです。人間にとってはやばいものになる。それが超常現象とか、心霊主義とか、魔術とかになる。 

 近現代になってくると、普通にみんなが体験する幽霊や超能力も入ってきますね。それをどんどん拡大解釈していくと、全てがオカルト。例えば、UFOが瞬間移動するとか、異星人がテレパシーを出すとか。だから、今日では、あやしいものはすべてオカルトだと、半分悪口みたいな使われ方をするけど(笑)、本来は崇高なものでした。 

――あやしいという単語が出たんですけど、「ムー」はあやしい雑誌というのを標榜していらっしゃると。 

三上:いや、もう日本一あやしいですよ(笑)。あやしいだけじゃなくて、日本一をつけてくださいと(笑)。 

――どのようなあやしさなんでしょうか。 

三上:あやしいというのは、基本的に魅力なんです。それは何かというと、わからないこと。全部わかっちゃったらつまらないじゃないですか。わからないところがあるから「え? 何か隠しているんじゃないの?」となる。人間はそういうものに惹かれるんです。好奇心の源泉ってそこじゃないですか。 

 未知であることが魅力であり、あやしいということ。それは裏返すと、怖いということでもあるんです。知りたいということと怖いということは、全部表裏一体じゃないですか。だから、そういう意味で、あやしいとは否定的な意味もあるけどこれほどの褒め言葉はないと思っています。 

――三上さんが最近気になっている面白い事象はありますか。 

三上:大学の先輩がいて、筑波大で物理学を研究していたんです。卒業した後は某自動車メーカーに行って、車の開発をしていました。そんなバリバリの理系の先輩が今、魔術師になってるんですよ(笑)。魔術師というと、魔法円など西洋魔術のイメージがあるかもしれないけど、違うんです。 

 当時はサイババが話題になっていて、本物かどうかを確かめたかったそうです。先輩は理系だから、もし本物だったら、物理法則を見直さなきゃいけないと。本当に純粋な目的で会社を辞めちゃって、単身でサイババに会いに行こうとしたんですよ。サイババのいるインドからタイ、インドネシア、フィリピンなど東南アジアまで、シャーマンや魔術師のところを渡り歩いていった。当初のスタンスとしては、ある種、研究者だったんですが、いろいろやっているうちに、ミイラ取りがミイラになっちゃった(笑)。 

 今、何をやってるかというと、魔術師ですよ。儀式をやって、超常現象を起こすそうです。洞窟の中で儀式をやると、天井からバチっと火花が上がって、そこからガラスなどいろいろな物質が生まれて落ちてくるんだとか。インパクトがありますよ。 

ネタをキャッチするためには?

――なるほど、めちゃくちゃあやしいですね(笑)。オカルトのネタというのは、あらゆるところにあるんですね。本書では場末のスナックで得られた情報ほど貴重なものはないというお話もありました。 

三上:場末感満載なところは最高ですよ。そうした雰囲気になるまでに歴史があるんです。それだけお客さんに支えられているから、人脈がある。特にママはおしゃべりをしてくれる人も多いです。でも他のお客さんもいたら気をつかうじゃないですか。だから店をちょうど開けたくらいの早い時間、掃除をしているような時を狙っていくんですね。 

 そうすると「見慣れない顔ね」と言われる。「いや初めて来たんですよね」と言う。そして「いい街ですよね」と言っていっぱい褒めるんですよね。そうすると「そうでもないのよ」といろいろと話してくれるんです。普段聞く立場の人が話す立場になると、本当によく喋ってくれるんですよ。その街の裏のすべて、何から何までを話してくれるんですね。取材先の寺や神社の裏事情なども。「宮司さんの息子、あいつがダメでさぁ、今の宮司さんも苦労しているのよ」なんて(笑)。それこそ書けないようなリアルな話をしゃべってくれるんです。これは飲んでいる場数ですよ。 

――頭で考えた企画って、あんまり面白くないですよね。 

三上:考えたって思い浮かばないですよね。飲みに行って、馬鹿話をして、「お!それいいね!」みたいな形でしかないんじゃないかな。会議室で「では、10分間今から考えて」なんて言われても、何も出てこないでしょう。飲んでいる時、昼寝している時、あとはお風呂入っている時とかね。普段から問題意識を持っていろいろなものを見る。それでどこかでネタをキャッチするのが大事だと思いますね。 

――さまざまな観点からの「オカルト編集論」をありがとうございました。

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