海街diary、水は海に向かって流れる、うみべの女の子……夏に読みたい「海」が舞台の漫画たち

海が舞台になった漫画たち

 夏本番を迎え、海へ訪れる人も多くなるだろう。例年、この時期にTVニュースで放送される賑わった海辺の景色からは、夏特有の高揚感を覚えるものだ。

 けれど、今年は酷暑であり、また感染者数が増加傾向にあるコロナ禍ありで、アウトドアより家で過ごすという人も増えるかもしれない。そんなとき、涼をとりながら「海」を舞台にした漫画を読む、というのはなかなか楽しそうだ。本稿ではそんな作品の一部を取り上げ、各漫画作品において海がどのように描かれているのか考察したい。

『海街diary』

 「第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門」の優秀賞、そして「マンガ大賞2013」にて大賞に選ばれた『海街diary』。2015年には実写映画化された作品である。

 神奈川県の鎌倉に住む香田家の三姉妹は15年前に家を出た父の葬式に出席し、異母妹にあたる少女・浅野すずと出会う。あまりにも子どもらしくないすずの姿を目にした3人はそれぞれに思いを抱きつつ、長女・幸がすずに鎌倉で共に暮らすことを勧める。幸の提案にすずは快諾し、4人姉妹として過ごす日々がはじまった。

 鎌倉が主な舞台となる本作では、稲村ヶ崎や江ノ島といった海岸の景色が描かれるシーンが多く存在する。香田家の暮らす家やサッカーに励むグラウンドでは大勢で過ごす様子が多く見られるものの、海が描かれるシーンでは登場人物が2人きりで過ごす場面が非常に多い。

 海で過ごす登場人物たちは、まるで鎌倉の穏やかな海面が自身の姿を映しているかのように自身の秘めた思いをこぼし、耳にした相手はときに吹く潮風のように背中を押す言葉を口にする。

 海水浴や潮干狩りといったレジャーとして楽しむ一面と共に、海には人々が内省や相談をする場としての側面もあるのだろう。香田姉妹のように海が身近な存在であるほど、後者の側面として海という場を捉えている人は多いのかもしれない。

『水は海に向かって流れる』

 「マンガ大賞2020」で5位にランクインするなど、様々な漫画賞にノミネートしている『水は海に向かって流れる』。作者は実写映画化された『子供はわかってあげない』などで知られる田島列島だ。

 高校進学を機におじの住むシェアハウスへ引っ越してきた少年・熊沢直達。同じ屋根の下で暮らす26歳の女性・榊千紗の母は過去に直達の父と不倫の関係にあった人物であった。榊と直達は互いの存在を意識しながら、それぞれの日々を過ごすこととなる。

 物語のなかで直達と榊は海のちかくに住む人物の元を訪ねるのだが、言語学の研究者・gorotaku氏は自身が配信するポッドキャストにて、海のちかくに住む人物は将来のふたりがたどり着く未来であることを暗示している可能性を指摘した(参考:『#8 水は流れて暴れ馬は未踏のフロンティアへ、田島列島ナイト!』読めば助かるのに...... )。

 現に本作は『水は海に向かって流れる』というタイトルであり、“彼女の止まっていた時間が/流れ出す音がきこえた”というモノローグで物語の幕を閉じている。本作において海が登場人物における到達点や未来を示す記号として用いられている可能性は十分にあるはずだ。

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