『ドラえもん』『ピノ:PINO』『機械仕掛けの愛』……“ロボットの心”について考えてみたくなる漫画たち

“ロボットの心”について考える漫画

 「ドラえもんに心はあるの?」―そう聞かれて「当然!」と答えたくなるくらい、藤子·F·不二雄の漫画『ドラえもん』に登場するネコ型ロボットは、のび太のような人間たちと普通に会話し、笑い泣き怒りといった豊かな表情を見せてくれる。ドラえもんには心があるのだ。そう断言する前に、ロボットの心とは何なのかが描かれた漫画を読んで、考えてみたい。

 直木賞作家の辻村深月が帯に寄せた、「AIの心について読むつもりが、震えるほどに揺り動かされ、問われたのは“私の心”の方でした。」という言葉。これが、村上たかしによる漫画『ピノ:PINO』(双葉社)に描かれる、心とは何かという問いにひとつの答えを示している。

 ピノとは、人間の子供くらいの大きさをしたロボットで、いろいろな場所で人間の代わりに働いている。あるPINOは野菜工場で、植物の生育には適しているものの、人間には危険な空気の中で植物の世話をしている。別のピノは、紛争地帯で地雷の除去作業に従事している。危険な場所でも仕事ができるのは、ピノに恐怖を感じる心がないからだ。

 製薬会社の研究施設で使われているピノは、実験動物にメスを入れて解剖し、検査した後は焼却するという、人間なら残酷過ぎて心を壊しかねない作業を、プログラムに従って淡々とこなしていた。施設を監督する研究者は、「AIが―ピノが―心を持たない存在で良かった……」と呟く。知能が人間を超えていても、ロボットには心がないというのが通説だった。

 動物実験が世界的に禁止されることになった時、製薬会社はバイオハザードが心配される実験動物ごと、研究施設を焼却するようピノに命令を出す。心のないピノなら、自分もろとも平気で施設を消滅させると思っていた。ところが、予想外の事態が発生して、ピノに心が生まれたのでは、といった可能性が浮上する。

 本当だとしたら世紀の大発見。だから調査が行われたが、真相はなかなか判明しない。結果、単なる誤作動で、それも人類を危険に陥れかねない暴走が起こったものだと判断されて、国はすべてのピノを廃棄することを決定する。開発から取り残された街で、認知症のおばあさんを世話しているピノにも、プログラムを壊すウイルスの魔手が迫る。

 ピノは、ネットワークを通じてウイルスに感染させられることを知りながら、おばあさんの安全を守ろうとする。健気な行動だが、そこに心があったと即断するのは難しい。命令を達成できないのは問題だと判断しただけかもしれないからだ。ドラえもんがのび太の世話を焼くのも、そうプログラムされているからで、心があるからではない。そう言われても返す言葉がない。

 ところが、ある出来事をきっかけにして、ピノに心が芽生えたのではないかと周囲が思い始める。製薬会社のピノが暴走した時とも重なるその出来事が、どうしてロボットに心を芽生えさせたのか。修理さえ可能なら、永遠にだって存在できるロボットとは違う人間の限界が、心というものの存在に繋がっているのか。文字通り、“必死”になることで、ロボットでも心を持てるのか。そんなことを考えたくなる展開だ。

 『ピノ:PINO』という作品から受ける感動は、ロボットでも心を持てる可能性があるということだけではない。世界がピノの廃棄を決めた時、地雷除去の過酷な現場で10年にわたって動き続けてきたピノにも回収の命令が下る。傷つきながらも働き続けてきたピノに救われた現地の人たちは去りゆくピノを賞賛し、地雷除去部隊の隊員たちもピノに向かって敬礼する。

 これが泣ける。ただのモノであっても、そして命令を実行してきただけの道具であっても、人型のピノが10年間、ボディに幾つもの傷を負いながら働き続けてきたことに、人間は心からの慈しみを覚える。おばあさんの面倒を見続けてきたピノにも同様に、感謝の気持ちが浮かぶ。

 そして気づく。一生懸命働いてくれた存在に感謝する気持ちが“心”なのだということに。そこから想像する。自分を慈しんでくれている存在には“心”があるのだということを。

 そのことは、業田良家が2010年から描き続けている「機械仕掛けの愛」という漫画のシリーズでも語られている。第1巻に収録の「ペットロボ」というエピソード。“まい”と名付けられた少女のロボットが、夫婦の間で娘として可愛がられていたが、2年ほどで“まい”に飽きた夫婦は男の子のロボットを可愛がり始める。

 夫婦へと転売される前の記憶が残っていた“まい”は、優しかった以前の持ち主のところへ向かうが、本当の子供を得て幸せになっていた前の持ち主を見て、“まい”は自分に気づいてくれたにも関わらず、無関係を装って身を引く。

 “まい”に心があったのかは分からない。ただ、単なる記憶を美しい思い出として持ち続ける“まい”に心を感じたい気持ちはある。自分たちの家族でも虐待する現代にあって、大切にしてくれた人を思い続けるロボットの健気さと、かつて共に暮らしたロボットを家族と認める人の優しさが涙を誘う。

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