それでもあなたは間違っているーー漫画家・筒井哲也が「表現の自由」と「自己規制」の狭間で描いてきたもの

漫画家・筒井哲也が描いてきたもの

問題提起作品としての自己規制

 筒井哲也の作品は、社会派の「イヤミス」や「ホラー」と分類され、中でも『マンホール』は有害図書指定されるくらいには過激な描写も含まれている。

 しかし、筒井作品は、いわゆるエロやグロで読者に衝撃を与えるタイプの胸糞の悪い漫画ではない。人が生理的に受け付けない犯罪や、犯人に同情するあまり冷静な判断ができなくなるような悲惨な部分は、可能な限りナレーションに語らせているのだ。

 これは、際どい内容を書く上での筒井の自己規制だと解釈できる。『有害都市』で語られている通り、表現の自由は必要だが、表現の自由があるからと言ってやりすぎては自分達の首を絞めかねないと考えているからだろう。

 ホラー作品や問題提起作品には、恐怖と生理的嫌悪を混同したものも多い。誰もが目を背けたくなる表現を入れることで、強烈なインパクトを残したり、議論を巻き起こすのが目的なのだろう。だが、禁断の表現を使った「胸糞の悪い」作品は、どんなに注目されるべきテーマを取り扱っていても、広い層に届かない。

 筆者は、筒井哲也の作品を読んでも、そこに描かれていた過激な絵や表現はほとんど覚えていない。強烈に記憶に残るのは、個々の作品に込められたテーマと、強いメッセージだ。作者名もタイトルも絵面すら忘れても「それでもあなたは間違っている」というセリフが頭から離れなかったのは、表現の自由と自己規制を重んじる筒井作品にとっての必然だったのかもしれない。

参考:「有害図書指定」された漫画家・筒井哲也さんが描く「表現規制」のディストピア
https://www.bengo4.com/c_23/n_6433/


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