LINEマンガ インディーズ担当者に聞く“新時代のマンガ家育成論” 「まずは世に出し、読者の判断に委ねる」

LINEマンガ“新時代のマンガ家育成論”

 電子コミックサービス大手の「LINEマンガ」に、マンガを投稿する機能があることはご存じだろうか。SNSで気軽に創作マンガが公開され、バズを起こすことが少なくない昨今。LINEアカウントさえあれば誰でも作家登録&インディーズ連載ができ、編集者が面白いと思えば積極的にフックアップするという、クリエイターに優しい仕組みが出来上がっている。

 そんなLINEマンガが現在展開しているのが、新規のマンガ作品を投稿したすべてのクリエイターに制作活動応援アイテムをプレゼントする「マンガ家応援プロジェクト#4」だ。こちらも応募のハードルが極めて低く、しかし応募者ごとに違うアイテムがプレゼントされたり、希望に応じた形で講評がつけられたりと、まさに「応援」といタイトルがふさわしく、クリエイターのために労力とコストがかけられている。

 LINEマンガには、このように創作と投稿に対するハードルを下げ、多くのクリエイターに活躍のチャンスを作ろう、という理念があるようだ。自身ももともとマンガを描き、専門学校でマンガ学科の教員も務めていたという、LINEマンガ インディーズ担当の小林俊一氏に話を聞いた。(編集部)

LINEマンガ編集部には、もともとクリエイター側の人間が多い

――LINEアカウントがあれば誰でも作家登録でき、プロデビューへの道も拓ける「LINEマンガ インディーズ」を起点に、応募者全員にマンガ制作に役立つアイテムが送られる「マンガ家応援プロジェクト」が展開中です。今回で第4回を数える、クリエイターに優しい好評企画ですが、そもそもどんな経緯でスタートしたのでしょうか?

小林俊一氏
小林俊一氏

小林俊一(以下、小林):「LINEマンガ」というサービス自体は多くの方に認知していただいていますが、「マンガの投稿」という機能があることは、広く知られているとは言い難い状況です。その周知をはかるとともに、プロデビューを目指していたり、より多くの読者に自分の作品を届けたいと考えている作家さんたちを応援したい、という気持ちからスタートしました。

 というのも、LINEマンガ編集部には、もともとクリエイター側の人間が多いんです。私も昔からマンガを描いていて、週刊少年マンガ誌のアシスタントもやっていましたし、同じようにマンガ家出身だったり、音楽業界出身だったり、「つくる側」の目線が強くあるのは、他の編集部さんと違うところだと思っています。

――なるほど。新たな才能を発掘したり、実力をつけていくための場所や企画を用意したり、ということに力を入れているのは、クリエイターの目線があるからだと。

小林:そうなんです。マンガというのは、読むのは一瞬ですが、描くのは時間もかかりますし、とても孤独な作業で。そんななかで奮闘している作家さんの界隈を、LINEマンガらしいやり方で盛り上げたかった、というのが大きいですね。

――「マンガ家応援プロジェクト」も、応募へのハードルが非常に低く設定されています。すでに実力のある作家を募る、という目的ではなく、まさに「応援」という印象ですが、参加者からの反響はいかがですか?

小林:もちろん応援アイテムを目的に応募してくださる方も多いのですが、少しでも先につながればと考え、希望者には編集部の講評をつけるようにしたんです。これに対する反響が思いのほか大きくて、驚きました。出版社に持ち込んだりせず、自由に創作をしている方々は、あまり他人にどうこう言われたくないだろう……と思っていたのですが、ふたを開けてみると希望者が多く、「勉強になった」という声もたくさんいただいて。

――「応援」の意味が広がった感じがしますね。

小林:私たちも手探りで、応募者の方が厳しく指摘してほしいのか、それともただ読んだ感想がほしいのか、ということがわからなかったので、途中から「辛口」とか「褒めて」というように、投稿時に講評を受ける目的を選択できるようにしました。もちろん、厳しい基準で競走して、連載を勝ち取る……というプラットフォームも素晴らしいと思うのですが、われわれはそうではない形で、創作する人たちを応援したいと考えています。

――それでいて、気軽なマンガ投稿が「トライアル連載」(※16週間、原稿料ありで連載を行い、目標読者数に到達したら本連載化される仕組み)につながり、さまざまなマンガ賞で話題になった『先輩はおとこのこ』のようなヒット作になることもありますね。

小林:そうですね。『先輩はおとこのこ』は単行本化、グローバル配信も行われており、こういう例があることをもっと知っていただけたらと。客観的に考えて、「LINEマンガ インディーズ」の作家さんにとって魅力的なところは、決まった編集会議がなく、自由に描けるところだと思っています。

 例えば、大手マンガ誌の編集部が会議を重ね、定期的に新連載を送り出していますが、そのほとんどが10週ほどで打ち切られてしまう。各誌の編集部がブランドを作り、クオリティをコントロールして、素晴らしい作品を送り出してきたことは言うまでもありませんが、マンガ研究をしているある大学の教授に話を聞いたとき、「そうではないやり方も考えるべきだ」とおっしゃっていて。つまり、面白いものはどんどん世に出して、読者の判断に委ねる、というのがもう一つの理想なのではないかと。もちろん、作家さん自身が編集部と二人三脚でやっていきたい、ということであれば、しっかり会議を行い、サポートしていきますが、そうでなければこちらで縛ることなく、自由に表現してもらいたいと考えています。

――マンガにおいて編集という機能は極めて重要ですが、作家と編集者の相性という問題もありますし、「担当をつけてもらってネームを描き続けているが、なかなか掲載に至らない」という話も聞くところです。ある意味で「LINEマンガ インディーズ」は、そうしたやり方で行き詰まってしまったときのオルタナティブな選択肢にもなると。

小林:そうですね。最近では、TwitterなどのSNSにオリジナルのマンガをアップして、大きな話題になるケース、バズを起こす作品も増えていますが、やはりマンガには「出してみないとわからない」というところがあります。会議で揉むというより、まずは読者/市場の評価に委ねてみて、そこから磨いていく……というルートがあってもいいのではと。

――その意味では、「LINEマンガらしい作品」という固定的なイメージがまだないことも、かえって強みになるかもしれませんね。どんな作品でも世に問うことができる。

小林:LINEマンガには、もちろんオリジナル作品も数多くありますが、他の出版社さんの作品も読むことができます。少年マンガもあり、少女マンガもあり、青年マンガもあって、良くも悪くもごった煮の状態なんですよね。ターゲットを絞りにくいことはデメリットにもなるかもしれませんが、しかしそういう場だからこそ、ジャンルの壁を設けず、多様な作品を出していくことができると考えています。どんな作品がウケるか本当にわからないところがあるので、いろんな作家さんに投稿していただきたいですね。

アマチュアでも「読み切り」ではなく「連載」が描けるという利点

――「LINEマンガ インディーズ」をウォッチしていると、必ずしも商業ベースに乗らない尖った作品がひしめき合っていて、ネクストブレイクの作家を見出すことができる……という状況が生まれると面白いですね。

小林:そうなることを期待しています。いまでもラブコメからヒューマンドラマ、ファンタジーにバトル、ギャグマンガ、BLやGLまで多様な作品が投稿されていますが、まだまだ抜きん出ることが可能だと思いますので、ぜひ気軽に作家登録をしていただきたいです。そのなかで読者の皆さんには、インディーズバンドを追いかけるような楽しみというか、「自分が育てた」と自慢できるような作家さんを見つけていただければと。実際、トライアル連載から本連載に進んだ作品をインディーズ時代から読んできた方々は、そんな気分が味わえていると思います。

――そんなマンガ好きにとって楽しい環境をつくるための「マンガ家応援プロジェクト」ですが、マンガの作品やクリエイターに応じたアイテムをプレゼントしていて、一律の対応ではないのが大変そうだと思って見ています。

小林:実際に大変ではありますね(笑)。最初は一律で、誰にでも役立つアイテムや金券などを考えていたのですが、ゲーム運営の経験があるスタッフから、「作品を投稿すること自体がもっと楽しくなる仕掛けができないか」と提案があって。つまり、「ガチャ」っぽいというか、賞レースのようなものではなく、界隈を盛り上げるお祭りのような感覚のものにしていこうと。手間はかかりますが、お祭りは楽しい方がいいですから。決して真剣に投稿されている方々を茶化しているわけではないので、その点はご理解いただければ。


――クスッと笑えるプレゼントもあって、創作の入り口として楽しいものになっています。

小林:いまはいろんなサービス、プラットフォームがありますから、少し違うことをしたい、という気持ちはあったかもしれないですね。ただLINEマンガに限らず、WEBマンガというのは、誰にでも読んでもらえる、というのが素晴らしいと思っていて。私がマンガを描いていた時代は、編集さん以外の人にマンガを読んでもらう方法がほとんどなくて、いまは描く人にとっていい環境ができてきたと思いますし、読む人にとっても、本当に多くのまだ見ぬマンガが無料で読めるんだ、ということをもっと知っていただけたらいいですね。

――SNSでのマンガ投稿を見ていると、日中は働きながら兼業で描いている、というクリエイターも多いように思います。そういう人からの投稿も多いですか?

小林:そうですね。「マンガ家応援プロジェクト」自体がそういう方のための取り組みという側面がありますし、インディーズでトライアル連載をされている作家さんも、4~5割は本業が別にある方なんです。かつては、多くの人にマンガを届けようと思ったら、本業の仕事があると選択肢がどうしても狭くなりがちでした。いまは選べる道が多様化しており、そのなかでこそ生まれる素晴らしいマンガ作品も増えてきていますね。

――マンガ家は連載で走り続けるもの、というイメージもあったと思いますが、本業が落ち着いた時間にまとまった作品を描き切る、という小説家のようなスタイルも選べるようになってきたと。

小林:そう思います。LINEマンガのインディーズ投稿には締め切りもありませんし、自分のペースでずっと地道に投稿されていて、100話、200話と描かれている方も多いんです。以前はマンガを投稿するとなると、読切という形でしか受け入れられないことも多く、いきなり連載の1話目を描く、ということは難しかった。いまは構想を膨らませながらじっくり描いていく、ということが可能になっています。

――自分のブログやSNSではなく、電子コミックサービスというプラットフォームに乗せて届けるとなると、また別の責任感も生じて、モチベーションにもつながりそうですね。

小林:実際、更新が滞るとコメント欄で読者に急かされたりもしますからね(笑)。私が担当している作品で、インディーズ連載で100話近く公開して、その続きをトライアル連載にステップアップさせて、過去のエピソードは無料話として公開しているものがあります。そういう方は、インディーズとして自己管理をして長く描き続けてきているので、連載になっても安定していて、ペースが乱れないんですよね。アマチュアのときに連載を経験する、というのは、その後のキャリアを考えても大きいことだと思います。

 私も商業誌の新連載の立ち上げを手伝ったことがありますが、作家さんもスタッフへの指示の出し方がわからないし、ペースをつかむまで連日徹夜するような、本当に大変なことになっていました。自分がどれくらいのペースでどれくらいのクオリティの作品を描けるか、というのは実際にやってみないとわからないんです。

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