世界を魅了するwebtoon『先輩はおとこのこ』はどう生まれた? 作者・ぽむ先生インタビュー

『先輩はおとこのこ』ぽむ先生インタビュー

 後輩女子・咲が「素敵な女性」だと思って告白した先輩・まことは、かわいいものが好きな“男の娘“だった――。

 「次にくるマンガ大賞2021」Webマンガ部門第3位を受賞、「第4回アニメ化してほしいマンガランキング」で3位入賞し、2021年12月30日に完結した話題作『先輩はおとこのこ』。2019年、「LINEマンガ」のマンガ作品投稿プラットフォーム「LINEマンガ インディーズ」へのマンガ投稿がきっかけとなり、同月12月に16週間限定の「トライアル連載」をスタート。トライアル連載中から圧倒的な読者の支持を受け、本連載へとステップアップ。2022年3月現在は、台湾・韓国・中国・タイ・フランス・ドイツの6カ国での配信が開始しており、トライアル連載出身作品史上初の快挙を達成している。さらにAnimeJapan 2022が主催する「第5回アニメ化してほしいマンガランキング」において、1位に輝くなど、映像化も期待されている作品だ。

 世間が求める“普通“と、突き動かされる“想い“。まだ“好き“という感情さえも確立しないなかで迷い、葛藤し、やがて自分自身の幸せを見つけていく。そんな『先輩はおとこのこ』が、どのようにして生まれたのか。今回は、作者のぽむ先生に制作背景をインタビュー。「LINEマンガ インディーズ」に投稿することで切り開かれた道と、今の率直な気持ち、これから描きたい作品のアイデアについても聞くことができた。(佐藤結衣)

【記事の最後に、ぽむ先生のサイン本プレゼントあり】

描きたかったのは、ずっと心の中に残る青春のエモさ

――最終話まで夢中で読み進めました。様々な賞やランキングにも上位入賞されましたが、連載が完結した今のお気持ちはいかがですか?

ぽむ:ありがとうございます。こんなに評価されるなんて思ってもいなかったので、もう「裏の組織が動いているんじゃないか!?」なんて勘ぐりたくなるくらいでした(笑)。けっこう見切り発車で始めたところがあったので、今、自分で読み返してみると、特に最初の方はお話がうまく出来ていないところもあって、読み進めていただけたことを本当にありがたく思います。

――物語の着地点を決めて進めていったわけではなかったと。

ぽむ:はい。とりあえず、10話分作って、次どうやってつなげよう……みたいな。

――美しいエンディングだったので、てっきり最初から決まっていたのかと思いました!

ぽむ:いえいえ、奇跡的にまとめられた感じです。ときどき読者の方から「あれはどういう意味だったの?」みたいなツッコミをいただくこともあるんですが、「すみません、何も考えていませんでした!」としか言いようがないというか(笑)。

――(笑)。では、どのように『先輩はおとこのこ』が生まれたのか、そのきっかけからお聞きしてもよろしいですか?

ぽむ:もともとTwitterを中心にイラストレーターとして活動していたのですが、そこから新しいことを始めたくてマンガを描くことにしました。最初は、BiSHの「オーケストラ」という曲からインスピレーションを受けて、女の子2人の淡い恋みたいな作品を作ろうと思っていたんです。MVがエモくて、すごく好きだったので。でも、気づいたら主人公が女装男子になっていました。

――気づいたら?

ぽむ:はい。率直に言ってしまうと、とにかくバズらせたかったっていうのもあったんですよね。そうなると、やっぱり注目を集めやすいのは、男女の恋愛モノで。とはいえ、シンプルなラブストーリーを描きたいという意気込みではなかったので、だんだんと「好きって何?」「特別ってどういうこと?」という葛藤系のお話になっていきました。

――なるほど。だからまことくんは、男の娘だったんですね。

ぽむ:女装をしている男の子という1つのテーマができたので、そこから付随して設定を広げていきました。まことくんのキャラクターを最初に作って、その真反対にいる人として、後輩の咲ちゃんを作って。その中間に入るように、りゅーじくん(まことの幼馴染)を入れました。あとは、ないところを埋めるようにして各キャラクターを作っていった感じです。

――Twitterでは、ぽむ先生の推しが「まこパパ(まこと父)」とありましたね。

ぽむ:話を進めていくうちに「可愛いものが好きなまことくんVS “男の子らしく”育ってもらいたいお母さん」みたいな構図になってきてしまって、味方がいないとかわいそうかなと思ってできたのが“まこパパ“でした。私の中の「こういう父親であってほしいな」っていう理想を詰め込んだ人になったので、推しです(笑)。

――それぞれのキャラクターを描く上で、意識されたことは?

ぽむ:まことくんは、なるべくドロドロとした部分は出ないように意識しましたね。ともすれば、共感されにくいデリケートなキャラクターでもあるので。咲ちゃんについては、描きながら設定が詰めきれていなかったことを痛感して、あとから抱えているものと心の動きとをつなげていくのが難しかったです。一番描きやすかったのは、りゅーじくん。設定もわかりやすいですし、なんでも思ったことをしゃべってくれますし(笑)。

――なるほど。ご自身を投影しやすいのも、りゅーじくんでしょうか?

ぽむ:そうですね。幼い子が頑張って大人ぶっている感じを描きたくて、学生時代の自分を思い出しながら頑張りました。ただりゅーじくんは当初、序盤にちょっとだけ出るキャラだったんですけど、思いのほかみんなが「いいよ」と言ってくれたので、最後まで残った感じなんですよ。

――なんと! むしろ、りゅーじくんなしの物語が想像できません(笑)。

ぽむ:それくらい手探りで描いた作品っていうことなんですよね。

――でも、最後にそれぞれがちょっぴり大人になっていく形はすごく美しかったです。

ぽむ:学生時代の人間関係って、その時期はものすごく濃いけれど、大人になってみると意外と会わなくなったり疎遠になったりするじゃないですか。でも、やっぱりあの時代が今の支えになっている、みたいなことってあるなと。そういう青春時代の人間関係を物語に昇華したかったんですよね。もしかしたら、この3人も社会人になったら一緒にいないかもしれない。でも、あの高校時代の日々を支えに、今後の人生を生きていくんだろうな……というラストにしたくて。

――まさに青春。あの時代ならではの人間関係ってありますよね。

ぽむ:きっと私自身がもう学生の恋愛とか片想いのドキドキみたいなところは、ちょっと卒業してしまった感じがあるのかもしれないですね(笑)。でも、こういう青春時代特有のエモさみたいなのは、私がアイドル好きなこともあって、まだまだ実感できるところがあって。アイドルもいつか卒業とかしてそれぞれの道を歩んでいくじゃないですか。でも、一緒に活動していた仲間とのつながりとか、その時期すごく頑張っていたことは、彼女たちの支えになり続けるんだろうな。それってエモいなーって。だから「ずっと一緒だよ」とはいかないかもしれないからこそ、心のなかにあり続けるものを描きたいと思いました。

楽しく描き、評価されたのもwebtoonだったから

――先ほど「新しいことを始めようとマンガを描くことに」とありましたが、なかでも投稿先に「LINEマンガ インディーズ」という場所を選んだのは、理由があったのでしょうか?

ぽむ:実は以前もいくつかのメディアでマンガは描いていたことがあったんです。私の力不足もあって、描いては、担当の方に見ていただいて、直して、また見ていただいて……と、なかなかOKが出ずに何も進まないみたいなことになっちゃったことがあって。でも、「LINEマンガ インディーズ」から行うトライアル連載では、まずは16週間のお試し連載、みたいな感じだったからかもっと自由に表現することができて。「本当に載っちゃっていいのー?」というくらい、パパパッと連載の話が進んだのが大きかったですね。

――担当の方からの指摘もあまりなかったと。

ぽむ:きっと私から「まずプロットを見てください」とか「直したほうがいいところを指摘してください」って言ったら、対応してくださったと思うんです。でも、私もいろいろと自分でやって試したていきたいタイプだったので、好きなようにやらせてもらいました。そういう自由度の高さは、他にはない魅力だと思いました。

――プロフェッショナルにアドバイスをもらうのも勉強になりますが、まずは世に出してみて読者の方の反応から学べるというのも学びが多そうです。

ぽむ:そうですね。読者のみなさんに育てていただいている感覚もありました。本当に細かなところまで見てくださっている方もいて。一度テレビに映った天気予報の等圧線を「雨の日なのに、これじゃ晴れだよ」って指摘してくださった方がいて。「うわー、何も考えてなかった~」ってなったことがありました(笑)。

――いつか「ぽむ先生に等圧線を教えたのは自分だ」なんて、自慢したくなるエピソードですね(笑)。

ぽむ:そうなれるように「もっと成長するから見てて!」という気持ちです(笑)。やっぱりTwitterなどで直接コミュニケーションが取れるっていうのもWEB時代ならではの読者の方との関係性だなって思いますね。知名度が上がっていくにつれて、最初のころから応援してくださる方が喜んでいるのがTwitterのコメントなどから伝わってきましたし、いつも励まされています。

――修正作業などの工程数は少ないとはいえ、素人考えですとwebtoonはオールカラーで大変ではないのかなとも思うのですが、そのあたりはいかがですか?

ぽむ:そうですね。たしかにモノクロ原稿のほうが楽だとは思います(笑)。でも、作業量の努力に見合った評価のされやすさという面で、webtoonのほうがやりがいがあるんですよね。たぶん従来のマンガ形式で描いてても、私がこんなに評価してもらえなかっただろうなって思うので。webtoonというのは、まだまだいろんなことができる可能性があるんです。これまでの形式のマンガだと、天才たちがもういろんな工夫をやり尽くしているところもあって。でもwebtoonなら「もっとこんなことができるかも?」を実際に試していける。そこが新しいことをしたがりな人にはすごく向いているように思います。

――そうした新しい表現のアイデアは何から得ていますか?

ぽむ:マンガを描くようになってから、映画やドラマをよく観るようになりましたね。「こういう影の入れ方があるんだ」とか「こういう色味を使うと過去の回想っぽくなるんだ」みたいなところを、実際にマンガで試しています。

――最近ご覧になった映像作品で刺激を受けたものはありますか?

ぽむ:『ブレイキング・バッド』というアメリカのドラマがあるんですけど、脚本とか演出がすごく良くて。水の中から手が伸びるのが見えたり、壁の位置が変わっていたり、場面によってカラーリングがガラッと変わって面白かったですね。自分でもこういう場面転換の方法を使ってみたいなって思いました。

――他にも、ぽむ先生のなかで、影響を受けた作品があればジャンルを問わずにお聞きしたいです。

ぽむ:『とらドラ!』が好きですね。りゅーじくんの本名は「大我竜二」にしたんですけど、それは完全に『とらドラ!』の影響です(笑)。あとは『宇宙よりも遠い場所』という南極に行くアニメもすごくいいなと思います。『輪るピングドラム』とか『少女革命ウテナ』とか『ゲーム・オブ・スローンズ』も好きですね。やっぱり傾向としては、恋愛という言葉で当てはめない関係性みたいなのに惹かれるんだと思います。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる