『同志少女よ、敵を撃て』セラフィマのイラストで注目 人気イラストレーター・雪下まゆが物語に与える力

雪下まゆ、イラストの力

逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)

 そしてもうひとつが、逢坂冬馬の『同志少女よ、敵を撃て』だ。ドイツ軍によって母親や村人を殺された少女セラフィマが、狙撃兵となり仲間の女性たちと共に独ソ戦の最中を駆け抜ける。アガサ・クリスティー賞受賞作だが、ミステリーというより戦争小説というべきだろう。戦争のリアルと、その渦中に放り込まれた少女の魂の彷徨を描き切った傑作である。

 さて、ここでカバー・イラストである。またもや表紙・背表紙・裏表紙で一枚の絵になっている。表紙には、雪の上にうつ伏せになって、狙撃中を構えているセラフィマのアップだ。このセラフィマの、どこか遠くを見ているような眼の描き方が狙撃兵らしくて、実に宜しい。

 ただし、それ以上に留意したいのが、うつ伏せになっているセラフィマの手前だ。雪の中から青い草が伸びているではないか。セラフィマの姿から、戦争の過酷さが伝わってくる。同時に、雪の中から伸びた草には、過酷な現実に巻き込まれた人々(草は庶民の象徴でもある)の強さと、未来への希望を表現しているのではないか。裏目読みが過ぎるのかもしれないが、そう思わせるだけの力が、このイラストにはあるのだ。

 以上、小説と絡めて、雪下まゆのイラストの魅力を語ってみた。そしてカバー・イラストが気に入った人は、画集『The Artworks of Mayu Yukishita 雪下まゆ作品集』を手にするといいだろう。あらためて雪下まゆの世界に、魅了されるはずである。

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